月夜の当番

 太陽が西の地平線にかかるころ、

 その人は、

 もぞもぞと薄い布団の中から抜け出した

 今日もまた夜を

 はじめなければならないから


 夜空の色をした「つなぎ」に着替え、

 空まで届く、東の塔へと上る

 西の空では

 昼の当番が「今日の太陽」を片づけている


 夜の当番である彼が、

 夜空のキャットウォークを歩きながら

 明るい星々の、電灯を

 ひとつ  ひとつ

 強い光から順に

 スイッチを入れていく


 星の電灯は

 その根元にしかスイッチがなくて

 空に架けられた、とても細い道を

 夜のうちに、走り回る

 何度も  何度も

 彼は、それでも苦しくはなかった

 どんなに辛くとも

 終わる果てのない仕事だとしても

 この世で、一番の「自分の仕事」だった


 星の明かりをつけ

 月の風船を膨らます

 今宵の月はめいっぱい大きく

 ゆっくりと東の空から

 風に流す


 風船が夜を渡るころ、

 星のスイッチを消して回る

 クタクタになるまで疲れ果て

 棒のようになった足で、

 東の塔に戻る

 夜の当番の最後の仕事

「今日の太陽」を

「今日」の空に浮かべる


 皆に降る

 朝のために

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る