第3号 折れないごぼうがここにあるんだ
家のテレビで、東京ガメニズの試合を観戦していた。対
微動だにしない
「監督」と、まっすぐな眼差しを向ける阿久。
「なんだ阿久。なんで出てきた」マウンドに顔を向けたままの監督。
「俺の出番かと思って」
「はっ」笑う西目。「球団のお荷物がなにを言うかと思えば──」
「これを見てくれ」
阿久はアンダーシャツの袖から、しなびたごぼうを取りだした。
「は?」
あっけにとられている様子の監督の目の前で、阿久は両手でごぼうの端を掴み、ぐにゃりと曲げてみせた。
阿久は言う。「冷蔵庫の中で二週間放置されたこのごぼう。干からびて、シワシワ、しなしなだよな──。でも、折れないんだよ。新鮮な野菜だったらこうはいかない。出嵐は新鮮な野菜で、このごぼうは俺さ。俺の心も、折れない」
『西目監督が動きます。ピッチャー交代のようです!』
この日、阿久の活躍で東京ガメニズは勝利を収めた。西目監督と阿久のやりとりはスポーツ紙に取りあげられ、四十五歳・遅咲きのヒーローが誕生した。またこの試合の後、日本各地のスーパーマーケットからごぼうが姿を消したというニュースも忘れてはならない。
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