ファンタジーの無い童話
@khuminotsuki02
第1話 出会い
朝起きたら僕の寝ていた布団の上に透けている女の子が立っていた。
咄嗟に幽霊とは思わずに、怖いとは思わなかった。一応事故物件化は調べたがそんな情報はなかった。
暫くは僕について回るだけで会話もできなかったし、何か悪さをするわけでも無かった。当然、僕以外の人はこの女の子は見えていなかった。
ある日仕事の関係で本屋に行くことになった。
そこで女の子が初めて意思表示をした。童話の本が置いてあるところから動かなくなった。
そして、一冊の本を抱えて、こちらをウルウルとした瞳でこちらを見上げてきた。
かわいい。特に犯罪系の趣味はないが、かわいい。そう、子供はかわいい、そう言うもんだと思う。
女の子が選んだ本が童話の桃太郎だった。
その晩、僕は女の子に桃太郎を読み聞かせた。女の子は熱心に桃太郎の話を聞いていた。
その日から、夜の寝る前の読み聞かせが日課になった。
数日間、読み聞かせをしていたら、女の子が話しかけてきた。
「ねえ、桃から人間は生まれるの?」
唐突な質問だった。僕はそれは物語だからだよ。と返したが、女の子は納得していなさそうな顔をしていた。
その日以降、女の子は日常の疑問を頻繁に話しかけてくるようになった。
大抵は日常の疑問で僕にも簡単に答えられるものだった。
そして、名前がないのが不便になってきたので、女の子に名前を聞いた。
しかし、名前を思い出せない、僕につけて欲しいとのことで、僕は「ニカ」と名付けた。
ニカは、喜んでいた。多分女の子でなくても、子供の喜ぶ顔はかわいい。と思う。
ちなみに僕の名前は新道たかし。ニカが話しかけてきてから、ニカは僕のことをたかしと呼んでいる。
ニカはそれから本屋に行っても新しい本をねだることは無かった。
いつも桃太郎の本の読み聞かせをねだった。
それから何日読み聞かせをしたのか忘れた頃、またニカから疑問が来た。
「ねぇ、桃から人間は生まれるの?」
そういう物語だからね。僕がそう応えようとしたその時、ニカの腕が僕の胸のところに伸びてきた。
「そういうのはいいから」
ニカがそう言うのと同時に僕の心臓を掴んだ。
激しい痛み。等と表現してしきれない痛みと死ぬかもしれいという恐怖。それが同時に僕の体を支配した。
ニカは無表情のまま僕の心臓を握る手を緩めることはない。
「分かった、、、分かったから、、、。その手を、、、いったん、、、どけて、、、」
僕の必死の願いが通じたのか、ニカは僕から手を放してくれた。
呼吸を整えてから、ニカに向き合った。
「桃太郎のファンタジー要素を無くした物語を作って」
ニカが無表情のまま訴えてくる。相変わらずニカは薄っすらと透けいている。
そんなニカからファンタジー要素を無くした物語を希望される、何の冗談だよ。そうは思ったが、表情には出さなかった。
もうあの痛みはごめんだ。
とにかく、ニカの話をちゃんと聞いてファンタジー要素を無くした桃太郎とやらを考えなければならない。
ニカの疑問点は大きく分けると
1・桃太郎は桃から生まれたのか?
2・桃太郎のお供がなぜ、犬、猿、鳥なのか?
3・なぜきびだんごだけでお供たちがついていったのか?
4・なぜ鬼が悪さをしている描写がないのに退治されるのか?
こんなところか。細かいところはまだあるかもしれないが、とりあえずはここの疑問を解消していかなければならないのか。
どうしよう。でもなんとかするしか無い。
僕は図書館や本屋などを周って桃太郎の物語に関連する本を読み漁った。
調べていくと色々と知らなかったことが分かってきた。
なるほどなぁ、と感心することが多い。ニカにいわれて仕方なく調べ始めたことだったけど、調べていくうちに色々と知れて面白い。
そして、何とかまとめることが出来た。
ニカに確認したら、説明だけではなく、ファンタジー要素を無くした桃太郎の物語を新しく作ってほしい、とのことで新たに物語を作ることになった。
全くを持って面倒くさい。
でもしょうがない。僕は物語を新たに作った。
ニカには面白さは求めないことを確約してもらった。
僕は作家ではない。面白さまで求められても困る。どころか、僕にはどうにも出来ない。
そんなで、僕は新しい桃太郎の物語を創作した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます