第二説教人 快刀乱麻/四面楚歌

 名は体を表す――という言葉がある通り、我々書き手は、自らが創り出したキャラクターに名前を与えます。最初はその名前に違和感を覚えても、次第に名付けた通りの人物となっていく――。その過程を楽しめるのも、物語の創造主としての特権に思える今日この頃、またしてもこの作者わたしに物申したいキャラクターがいるようです。


 今回のキャラクターは、『快刀ディクショナリー』より、「快刀乱麻探偵事務所」の所長・快刀かいとう乱麻らんまと、その助手・四面しめん楚歌そかのお二語句です。


(え? 今回は二語句……だと?)


「で、では、改めまして、貴方がたの創造主、ノエル――」


「肩苦しい挨拶なんていらねえよ。アンタが俺らの創造主であることくらい分かってるからな」


(くっ、またしても名乗らせてくれねえなぁ! どいつもこいつも作者への敬意ってモンがねえっ――!)


「ちょ、ランマさん! これでも僕達の創造主さんなんですから、もっと敬意を持たないと失礼ですよ!」


「ソカちん……」

(今この子、これでもって言わなかった……?)


「あ、僕のことソカちんと呼ぶのはやめてもらっていいですか? 色々あって、その呼び名は虫酸が走るんで」


「あ、ハイ。スミマセン……」


(――っち! 確かに色々あったな。それもこれも作者おまえのせいってか? ソカめ、大人しい顔して、ここぞとばかりに糾弾しやがるっ)


※ソカは尊敬する【四字熟語】――【韋編いへん三絶さんぜつ】によって、貞操の危機に直面したエピソードがあります。


 かなりのご立腹なのか、いかにも高級そうな革張りの椅子に座る二語句の前で、ゴザの上で正座させられている作者。 


(あれ? なんでこんな金持ちと貧乏人の構図になっているんだ? こいつら【四字熟語】のくせに、金持ち語句でもないくせにっ……)


「そ、それで、作者わたしにどういったご要望が……?」


(またどうせアレだろ? 前回の水影と同じく、俺らの物語の更新、サボってんじゃねえよって言いに来たんだろ?)

 

「まあ、なんだ。アンタが俺らの生みの親だというのは分かってんだ。俺らは【四字熟語】――。それぞれの〈意味〉を守り、その名の通り生きている。そうだろ?」


「は、はい。ランマ君の仰る通りです……」


「いや、俺は別に構わねえんだよ、それでも。なんつったって、【快刀乱麻】だからな。その〈意味〉も〈こじれた物事を手際よく解決すること〉で、いかにも探偵らしいものだからな。だが問題は、【四面楚歌】――俺の相棒の方だ」


 ランマの親指がソカに向く。つられて私の視線も彼に向いた。


 わなわなわな……と小さく震えるソカ。チェック柄のスーツベスト姿で、育ちが良さそうなルックにしたのは、この作者わたしだ。いかにも探偵の助手、ワトソン的立場の準主人公であるお前が、一体何の不満があると言うのか――?


「……う、ううっ……ぼ、ぼくは【四面楚歌】でっ……、ランマさんの助手でっ……」


(え? な、泣かれたあああ!!?)


「ちょ、ソカや。なぜ泣くんや? アンタは立派な探偵の助手やで? アンタがいなきゃ、『快刀――』の世界は成り立たんのやで?」


「関西在住でもないくせに、エセ関西弁なんか使わないでください! 【千変万化】を思い出してイラっとするんですよ!」


「ゴメンゴメン、超ゴメン!」


 その場でひれ伏し、謝った私の後頭部に、ランマの吐息が落ちてきた。


「あのなぁ、アンタがどういうつもりで【四面楚歌】を俺の相棒に選んだのか分からねえけど、こいつの〈意味〉からして、絶対に探偵の助手じゃねえだろ?」


「そ、そんなことはないよ! 【四面楚歌】が探偵の助手だっていいじゃない!」


「なら、こいつの〈意味〉を言ってみな?」


「たしか……〈四方を敵や反対者に囲まえて、味方がいない様。孤立無援の状態〉……でしたっけ?」


「でしたっけ? って、アンタが他所の辞書から引っ張ってきたんだろうが! ……ったく、その〈意味〉も相まって、あろうことかこいつを不運キャラにしやがったな?」


 シクシク泣き続けるソカ。


(ええ? なに? 今回はキャラ付けにいちゃもん付けられている感じ? 確かにソカは作中一不運なキャラ設定にしてあるけど、それは【四面楚歌】だからで、ワトソン的立ち位置だからで――!)


「……べ、べつに良くなぁい!!?」


「良くねえわ! 毎回こいつの不運に巻き込まれる俺らのことも考えろ! なんで毎度毎度敵サンに四方を囲まれねえといけねえんだよ! こいつの尻拭いをさせられる主人公のことも、ちったぁ鑑みろってんだぁ!」


「ごめんなさい、ランマさん。僕が不運極まりないキャラ設定なばっかりに、いつもご迷惑をおかけしてしまって……」


「いや、お前は悪くねえよ、ソカ。悪いのはここにいる創造主だからな」


「ああ、僕達の創造主さんに、自らが生み出したキャラクターを愛する精神があればなぁ……」


 ランマとソカが、作者わたしに向かってクソでかい溜息を吐いた。


(――ぐっ! なんだこいつら。これみよがしにキャラ付けの変更を訴えてきやがってっ……!)


「……ふ、不運じゃないソカなんて、つまらないと思わない?」


「思わねえよ!」


「え? ピッタリ二語句の言葉が重なって聞こえた気がしたけど……。ソカ、君は乱暴な言葉なんて使わないよね? そんなキャラじゃないよね?」


「いいえ? 僕だって黒い部分がありますから。イラッとすれば、『ねえよ』も『ねえわ』も使いますから」


「やだよ、そんなソカ。君は大分ちょっぴり不運であっても、純粋でお人好しなキャラクターなんだよ? 主人公であるランマが破天荒な分、君で相殺しなきゃ、『快刀ディクショナリー』は成立しないんだ」


「創造主さん……」


 大分に"ちょっぴり”とルビを振ったことは内緒。


「それに、私は君達の創造主だよ? どんなキャラクターだって、全員に愛情を注いでいるんだ。重要キャラであれ、捨てキャラであれ、無碍むげに扱ったりするものか。善人だけが出てくる物語なんてない。どの作品にも胸糞だと思われるキャラクターは登場するも、作者からすれば、みな愛すべきキャラクターなんだよ。不運だって、ソカのアイデンティティの一つなんだから、いつか君のそれが物語に大きな意味をもたらす時が訪れるはずさ」


 よし、今回は私が諭して終わりだな。これ以上、作者に対する要望もないだろう。


「……そ、創造主さんがそう仰るのなら、僕はこのまま不運でも構いません」


「ソカぁ! 分かってくれたんだね!」


 ソカが恥ずかしそうに頬を赤く染める。


(可愛いなぁ、ソカは。うん、分かってくれたようで何より)


 そう安堵した、次の瞬間――。


「良かったなぁ、ソカ。そうだ、この際だ。創造主の創作活動の助手でもしてきたらどうだ? ちょうどカクヨムコンとかいうコンテストの真っ最中らしいし、寝る間も惜しんでこのエッセイも書いているんじゃねえか?」


「え? ちょ、ランマ君? 何を言って――」


「それは良いですね、ランマさん! 是非とも創造主さんのお手伝いがしたいです!」


「聞く所によると、俺らの創造主は、紅茶が好きらしいぞ。お前が淹れる紅茶は絶品だし、こっちの仕事の息抜きがてら、二、三日骨休みしてこいよ」


「ハイ! ではお言葉に甘えて、この【四面楚歌】が創造主さんのお手伝いをしますね! ――


「いや、なんか禍々しいオーラが出てるんですけど!? ソカ君、引っつまづいてパソコンに紅茶とかぶっかけたりしないよね? そういった不運は御免被るんだけど!?」


「いやだなぁ、創造主さん。僕は【四面楚歌】ですよ? 貴方が執筆に集中したい時に、貴方の周りを二人のお子さんと甥っ子さん、姪っ子さんで取り囲むに決まっているじゃないですかぁ!」


「おもっくそ邪魔しにくるつもりやでぇ、この語句ー!!!」


「ええ。僕は【四面楚歌】。貴方の四方を取り囲み、孤立無援の状態にしてみせましょう。名は体を表すって言うでしょう? 僕達の日常を味わえば、少しは不運の量も減らしてくれますよね、創造主さん?」


「生み出したキャラクターは、我が子同然だよなぁ? 俺らも創造主のことは親のように思ってんだ。最後の一文まで愛してくれよな、母ちゃん?」


「誰が母ちゃんじゃあ! わしゃあ神じゃあ!!」


 こうして暫くの間、執筆中の私の周りを四人の怪獣が取り囲み、悉く邪魔されたのであった。


 ……うん。今日も『風見鶏令嬢、救世主になる!?』の続きが書けなかった。明日こそ、明日こそー!


 




















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