第25話 実家に帰ろう
俺は冷えたビールを、柏木警部に渡した。
「柏木警部も、お酒お好きなんですか?」
「まあね。酔わないけど、好きは好きかな」
「俺の友達も酒好きなんですが、やっぱりロボットなんで酔わなくて。ロボットの酒好きって、どこで通じるんですかね」
俺はふとした疑問を口にした。柏木警部は少し考えてから答えた。
「アルコール摂取すると、少しだけ冷却機能が鈍って体温が上がるのよ。そうすると、なんだかぽうっと気持ちよくなるのよね。まあ、人間と同じ酔うって感覚と同じなのかな。って、酔ってないってのは嘘になるわよね。ただ、どれだけ飲んでも泥酔したり、二日酔いってやつになったりしないけどね」
「そうなんですか、俺ちょっと飲み過ぎるとすぐ二日酔いになるんで……羨ましいです」
「そう。不便ね。あ、あんたも飲んだら」
柏木警部は、いただくわねと一言。ビール缶のプルタブを上げた。ぷしゅうっと音が鳴る。
「じゃあ、俺も頂こうかな。ウサ子が来てから、なんだかんだであんまり飲んでないんですよね」
俺も自分用のビールを冷蔵庫から取り出して机に置くと、テレビに夢中のウサ子にエプロンを掛けた。
「ウサ子、すぐ汚すんで。食べさす用意しますから、柏木警部先に食べちゃってください」
「あんたも、ちゃんとパパやってるのね。じゃあ、頂くわ」
俺はいつもの事なのだけれど、ウサ子にある程度ご飯を食べさせてからしか食べれない。一緒に食べたいけれど、それは諦めている。
「あら、すっごく美味しいじゃない。私ね、こう見えても結構食べるのよ。ロボットって、いくら食べても太らないのが便利よね。そこは、ありがたく思うわ」
「いいですね。じゃんじゃん食べちゃってください。なんなら、おかわりも」
「ありがと」
ウサ子にご飯を食べさせながら、柏木警部が食べるのを見ていた。初めてではないのだけど、このシチュエーションは初めてで、改めて見るとドキドキする。やっぱり、俺、柏木警部の事が好きなのかな。
彼女は上品に食べるのだけれど、その口にどんどん食べ物は消えていく。
やっと俺が食べる頃に、柏木警部は食べ終わっていた。
「ああ、美味しかった。予想以上で大満足よ。ありがとうね」
「おかわりは?」
「いい。お腹いっぱい。あ、ビールだけ貰おうかな。あれば」
「デザートにしますか?」
「あんた、今からでしょ? 食べ終わってからでいいわよ」
「わかりました。さっさと食べちゃいますね」
俺は、柏木警部にビールも渡した。
「いい、ゆっくり食べな」
けれど、ウサ子はゆっくり食べさせてくれない訳で。ウサ子を抱きながら、俺はご飯をかきこんだ。いつもの事だ。
食べ終わって、冷蔵庫から手作りのプリンアラモードを出した。
「デザートどうぞ」
「わお、すごいわね。こんなにがんばらなくてもよかったのに、大丈夫?」
「はい、なんか楽しくて。こんなんになっちゃいました」
ロボットといえど、柏木警部も女性なんだな。別腹というか……。正直食べれるかなと思えるほどの量だったトルコライスを平らげ、更にプリンアラモードを食べるのだから。
食べ終わった柏木警部は満足で幸せそう。俺まで幸せな気分になる。
「あー、本当に美味しかった。ありがとうね」
「いえ、俺こそいっつもお世話になってるお礼ですし。食べて頂いてありがとうございます」
「あのさあ、あんたいっつも私に対して恐縮し過ぎじゃない? 何度も会ってるんだし、そろそろもう少し慣れてくれてもいいと思うんだけどなあ」
それは、どういう意味と捉えたらいいんだろうか。
「あ、いや、でも……そんな、たいそうな……」
「なんで? 美人だから? やり手の警部だから?」
「あ、はい」
俺は、目を逸らすしかできなかった。柏木警部は酔ってるのだろうか。いや、ロボットだから人間みたいには酔わない筈なんだけど。
「ねえ、もう少し慣れてよ」
失礼かと思って距離をとっていたことが、逆に失礼だったんだろうか。
「なぜ、ですか?」
「なぜって……皆そうよ。なんで恐縮すんの? 他の人にはもっと親しげにしてるんでしょ?」
「あ、え、えっと」
俺が困っていると、柏木警部は声を上げた。
「やーめた!」
「え?」
「そんな困るようなこと、言ったつもりないし。もしさ、あんたが迷惑じゃないってんなら、またご飯作ってくれる?」
「あ、はい、喜んで!」
そんなに気にってくれたのかな。嬉しいな。
「連絡するわ。あんたの連絡先は署に行けばわかるし、また時間はある時にでも」
俺は、今しかない! と思った。
「あの、俺、連絡していいですか? 柏木警部の連絡先、教えてもらえますか?」
「いいわよ。あとさ、プライベートで柏木警部は止めてくれない? 満嗣って呼んで」
「満嗣さん、ですね」
「そ。それでいいわ」
「あの、もののついでなんですけど、もう一つ聞いていいですか?」
「なに?」
「なんで、そんなに俺に気遣ってくれるんですか?」
一瞬、満嗣さんの動きが止まった気がした。
暫くの沈黙後、彼女は答えた。
「なんだろうね、昔の知り合いに似てるみたい。懐かしいのかな」
「昔の知り合いですか? 事故の後……ですよね?」
「うーん……そうねえ。どのくらい昔かは、忘れちゃっtわ」
俺は、過去に満嗣さんに会った事はない。もし出会っていたなら、こんな超絶美人を忘れる筈がないと思う。だから、絶対別人だと思う。けど、その人に似てるって……。
「その人は、満嗣さんの想い人ですか?」
「なんで、そーなんのよ?」
「だって、そんなに覚えてて懐かしくなるほど気になるとか」
「気になるって、違う。懐かしくなってただけでしょ。もう、アホな連想すんなら、もう会わないわよ!」
「いやいやいやいや、すみません。そんな、俺がちょっと気になっただけですから」
「じゃあ、もう少ししたら私帰るわ」
「あ、そうですか」
俺からしたら、楽しく話していたところだったので、帰ると言われて現実に引き戻されてしまった。時間もあっと言う間だった。
「送りましょうか?」
「人間が、なにいってんの。大体、タクシー呼ぶし。大丈夫よ」
「そうですか」
一瞬、飲酒運転するのかと思ったが、そこは警察らしい。
「ふと思ったんですが、ロボットも飲酒運転になるんですか?」
「一応ね」
勉強になりました。
ウサ子が、うとうと始めていた。やばい、お風呂にまだ入れてないのに。
それを見て、満嗣さんがウサ子のほっぺをつんつんした。
「ウサ子ちゃん、じゃあね。またくるね」
「またね」
小さい声で、眠そうにウサ子は返事をした。
「じゃあ、がんばってパパしてね。仕事、最近また忙しくてさ。なかなか連絡付かないかもだけど、なんかあったら連絡して。緊急の時は、署に連絡してくれたらいいから」
俺は苦笑いを向けた。
「緊急がないことを祈りたいですけど」
満嗣さんは、笑った。
彼女が帰った部屋は、寂しさがこみ上げた。次はいつあるかわからない。また、食事を作ってお話したいな。今度は、何作ろうかなあ。
眠そうなウサ子をなんとか風呂に入れて布団に寝かすと、俺もどっと疲れが出た。あっと言う間の一日だったけれど、一日の時間はいつも通り流れていたらしい。
俺も、死んだように眠っていたと思う。
明日は実家に帰ろうと思った。連絡やっぱり忘れていたけど、多分大丈夫だろう。母さんも父さんも、多分家にいると思うし、息子に内緒で引っ越したりはしないだろう。
で、ウサ子連れて暫くのんびりしてこよう。
そういえば、俺が小さい頃、母さん女の子欲しいって言ってたような気がするし、ウサ子の事喜ぶかも。
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