第47話 後は全てこれからの話
その後の話(エピローグ)について語りましょう。
陛下とバンデンバーグ大公の歴史的和解と比べたら、私とエルドリッチ・ドリームワークスとの決着など、知る人ぞ知る些末事に過ぎません。
ドゥーベルまで撤収した私を待ち受けていたのは、皇帝陛下直々の特務をこなした報奨金だけでした。
「ちょっとステラちゃんさん!? どーして逃げた馬の弁償金がオレんとこに来てんの!?」
「逃がしてしもうたのはお主の仲間じゃろ?」
約一名、想定外の負債を被った青年がいましたが。ついでに言えばグリーゼくんのパーティだったタウラ、リブラさんの両名も死亡扱いです。
厳密にはリブラさんは高次元に帰っただけですが、遺体を含めてこの世界のどこにもいないので同じです。
んで、最高級馬車馬二頭分の弁済をするハメに陥ったグリーゼくんですが、彼もしたたかなもの。即座にバンデンバーグ大公に取り入って、高収入な仕事に就いたのでした。
陛下の為の新事業と、これまでの反政府活動の事後処理をせねばならない身の上。多少アホでも信頼に足る強力な部下はありがたかったんじゃないでしょうか。
グリーゼくんは私の代わりの主人公役として、タウラを通じた営業部門総括とアスホーに見入られた訳ですが。結果だけならその日暮らしのギルダーから政府の裏役人の側近へキャリアアップして――。
アップ、かなぁ、これ!? だってグリーゼくんみたいなアホにやれるのって力仕事か汚れ仕事でしょ? 確実に戻って来る鉄砲玉ってんなら有用でしょうけど……まあいいや、どうせ彼の人生ですから。
「ん〜。いざ引き払うと思うと、この狭いアパートも名残惜しいですねぇ」
大して多くもない荷物を背負った私は、三ヶ月余りを過ごしたボロアパートを見上げて思いを馳せていました。
バンデンバーグ大公の謀反云々が円満解決したので、優秀な私達には早速次の指令が下っています。中央都へ戻る暇もなく、これから馬車で現地へ直行です。
言うまでもありませんが、私もセキシスもアバターの修復を完了させて、とっくに人型に戻っています。でないと街に入れませんからね。
「目を閉じると、これまでの日々が鮮やかに甦りませんか?」
「いえ別に」
「あらら」
素っ気ない返事ですこと。まあ、ほぼ寝るだけに使ってた部屋ですもの。ロマンチックな思い出も、ムフフなお色気展開もありませんでした。
「ま、関係の進展は今後に期待しましょうか。奇しくも私達の間にあった障害は消え去った訳ですし、ね」
どちらかと言えば、彼女が勝手に壁作ってただけですけど。
「……前々から言おうと思っていたのですが、わたくしに恋愛関係とか求められても困りますの。精神の規格が人類とは異なりますもの」
「だから惹かれるのですよ。私、孤独を愛するハードボイルドですもの。自分に振り向かない相手の尻を追い駆けるぐらいが、恋の形としては理想的なのですよ」
「ごめんなさい、あなたの言いたいことが1ミリも理解できませんの。それと、その可愛い姿にキザな言い回しは似合いませんの」
小声で「ほんっとーに、しょうがない人」って思いっきり肩を竦められました。
でも呆れの溜め息を吐く横顔も素敵ですよ。心做しか今までよりも表情が活き活きして見えますし。色々と吹っ切れた影響でしょう、善き哉。
「むふふふっ。だが心せよ、レティ。誰かの尻を追う者は、自身もまた尻を追われているのだとな」
「なんでいるんですか、陛下?」
急に湧いて出てきた陛下(ステラちゃんフォーム)が背後からロリ巨乳を揉もうとするのをカットします。とっくに帰ったものだと思っていたのに。
「そのつもりだったんじゃがな。お主らに火急の任務を頼みたくってな。取れ立てホヤホヤの情報じゃ」
思ったよりも真面目なトーンで話し出すので、私もセキシスも真面目に指示書を受け取りました。
「……これ、マジなんです?」
思わず確かめたその内容は、マグノリア連邦内の某国で鋼鉄の巨兵が確認された、というもの。同封されたスケッチには、営業部門総括やアスホーの用いた鉄巨兵の姿が雄々しく描かれておりました。
「大マジ。しかも確認されたのは、地下遺跡でヤツらとやり合って以降だ。確かもう、外の世界からの干渉は無い……ハズだったな」
陛下がセキシスに、大分固い口調で問います。疑念ではなく、純粋な危機感故です。
そして受け答えるセキシスは、思いっきり首を傾げています。頭上に大きな「?」が視えそう。
……試しに身体の一部を暗虚に変えてみて……と思いましたが、アバターから暗虚へ直接変貌させる方法が分かりませんでした。
「えー……ただのゴーレムとかじゃないんですの?」
「そうは言っても、あんなん見た後だし、もしも別口でまた……デバック? 何某だったら困るじゃろ。どこに滅亡の先触れがあるかも分からんのじゃし」
「そこまで言うなら仕方ありませんの。陛下の安眠の為にどーしてもってんなら、確認してきてやりますの」
「ああ、うむ。頼むわ……」
「しょーがねーな、やってやんよ」というセキシスに、陛下はツッコむ気力も失せたようです。
「んで、調べるのはいいですけど陛下。連邦への侵入ルートって用意されてんですか?」
「自力でなんとかせい、工作員じゃろうが。ティンダロスの先輩共はそうしとるぞ」
「それは初耳……以前に、情報共有なんてしたことありませんでしたね」
同じティンダロスのメンバーとか、ボスとセキシス以外は顔も知りません。諜報工作員とか、生きた機密の塊だしね!
だからって運用マニュアルも連携しないってのは不合理ですね。改善の余地ありです、機会があればですが。
「んじゃ、とっとと済ませて休暇ですのよ、レティ。中央都行きの馬車をキャンセル、適当に密輸業やってそうな組織にカチコミますの〜」
「宛てがあるのですか?」
「そーゆーのは作るものですの」
「そりゃそうだ。ではサイデリア陛下、レティ・クェルとアル・タルフ=セキシス両名、新たな任務に着名します」
「うむ、頼むぞ。あ、報告は中央都まで直接持ってきてくれ」
注文が細かいですね。いいですよ、オーダーは十全にこなしてみせましょう。
陛下に見送られ、馬車駅へセキシスと向かう道中。
宿敵との決着を果たしたけど、私の人生は前途多難です。これからも厄介事が舞い込んだり、首を突っ込んだりするでしょうから。
降って湧いた災難で始まった異世界美少女生活、退屈しないのなら、まだまだもっと続けてみるのも面白い。
「差し当たっては、更地状態なセキシスとの間にフラグを構築する作業が急務ですかね」
「どっち向いて喋ってるんですの。時々独りで明後日に話してるあなた、猫みたいで不気味ですのよ?」
「猫とウサギのコンビですか。悪くない、今度レザーでキャットスーツ、仕立ててみましょうか」
「どうぞ、ご勝手に」
ええ。滅びの迫る世界にて、存分に勝手させてもらいますとも。
私、主人公、らしいので。
悪夢的異世界転生レビュアー 無題13.jpg @atoli_elegy
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