第11話 闘技場王者への道

 三笠さんは一回戦を無事に勝利。二回戦目はどこかの格闘ゲームに居そうなヨガの達人だ。『ヨガ~』と言いながら全員クネクネさせているが、彼女の敵では無いだろう。ゴングと同時に二人とも前へ出る。


「カーン!」


 いきなりヨガの達人のみぞおちへ、三笠さんの前蹴りが飛んだ。だが、ヨガの力なのか、お腹を背中側へ『グニュッ』と曲げ見事に蹴りをかわす。なんだコイツは、すごいじゃないか。異世界の猛者たちも半端ではないな。


 しかし、彼女もそんなことでは動じない。すかさず相手の腕を取ると、そのまま『腕ひしぎ十字固め』へ入ろうとする。それに気付いた相手は腕を鞭のようにしならせ、難なく彼女の関節技から抜け出した。現実世界では見られない攻防に、見ているこちらもつい力が入る。


「あの体の使い方はなかなか面倒ね」


「!?」


 二人が一旦距離を取ったと思ったその瞬間。ヨガの達人の腕が伸び、彼女の腹部へ綺麗に一撃が入った。見た目はあまり強く無さそうなパンチだが…、彼女、効いているのか…。お腹を気にしているようだが…。


 それでも表情までは変わらない。さすがは最強女子。少しのことではまったく動じないぞ。一方、ヨガの達人の表情はどこか余裕そうに見える。彼女のことを甘く見ているのか。


「ダダダッ!」


 んっ?彼女が前へ出た。両足を掴んでのタックルだ!そうか、寝技に持ち込めば、あのクネクネする体にかわされることがない。最強女子の強さを見せてやれ。


「まだまだ甘いヨガ~」


「!?」


 何っ!?手足を伸ばして三笠さんの体に巻きついただと!?こんなことをしてくる相手は現実世界にはいないが、彼女はどういった対処を…、んっ!?


「甘いのは、あなたよ」


「ガキッ!!」


 三笠さんのパンチが相手の顔面を打ち抜く!


「グハッ!」


 その後はレフェリーが止めに入るまで、彼女は殴り続けた。ヨガの達人であっても顔面をクネクネにはできなかったようだ。これで二回戦目も無事に突破。


「三笠さん、二回戦目お疲れ様です」


「お疲れ様です」


「あぁ、ありがとう」


「お嬢ちゃん、あんた女の子なのにすごいじゃないか」


 んっ?あのおじさんはたしか…、受付にいた…。


「お嬢ちゃんじゃない、私は三笠茜」


「ごめんよ、茜ちゃんだね」


「茜で…いい」


「茜、わしは丹上段兵衛たんじょうだんべえだ」


「お前さんの強さ、半端じゃないが、何かやってたのかい?」


「総合格闘技」


「総合…格闘技?そうか、やっぱり格闘技経験者だったんだな」


 あの段兵衛とかいうおじさん、三笠さんに惚れ込んじゃってるな。受付していたときから彼女を見る目がどこか違っていたが、試合を見て、その強さを確信したようだ。まるでダイヤの原石でも見つけたかのような目をしている。


「お前さん、わしと一緒に闘技場のチャンピオンを目指さないか」


「もう…目指している」


「そ、そうだったな、だが、これから相手はさらに強くなってくる」


「気を抜くなよ」


 続く三回戦目の相手は、見た目はいかにもプロレスラーっぽい男。かなりの巨体だが、三笠さんはどうやって戦うんだ?パワーではさすがに勝てそうにないが…。


 ゴングと同時に再び前へ出た彼女は、いきなり相手の足めがけてタックル。上手い!だが、相手の男は足一本で彼女のタックルを受け止め、微動だにしない。これは厄介な相手だ。重量もパワーも彼女の比ではないな。勝算はあるのか…。


 彼女を掴もうと、相手の男は手を伸ばすが、スピードならこちらが上。難なくそれを交わして、逆に伸びてきた腕の関節をめた。


「ブンッ!」


「!?」


 パワーで関節技を無理やり振りほどいた。やはり少々分が悪いか…。万が一、アイツに掴まれでもすれば、一巻の終わり。さすがの彼女でもひとたまりもないだろう。一体どうやって…。


 と、その瞬間、彼女の目突きが変わった――


「ガキッ!」


 三笠さんは一瞬のうちに相手の懐へ入り込むと、顔面に見事なハイキック。


「ぐおぉぉぉ!」


「サッ」


「ガキッ!」


「ぐぅぅぅ!」


「サッ」


「ガキッ!」


 上手い!相手の懐へ入り、顔面にハイキック。それに反応して、仕掛けてきたカウンターを交わして、再度ハイキック。これだけ顔面へ強烈な蹴りを食らえば、さすがにあの巨体でも…。


「ぐぬぬ…」


 ヨシ!相手が膝を着いた。行け!今だ!


「バゴンッ!!」

(男の顔面に、三笠の見事な飛び膝蹴りが入る)


「バッターン!」


「おおおぉぉぉぉ!!!」

(会場がどよめく)


 すごい。あの巨体をもろともせず、相手に膝を着かせ、最後は強烈な顔面飛び膝蹴り。最強女子の名は伊達ではない。次はいよいよCブロックの決勝だ。おそらくこれまでの相手より確実に強いだろう。


 それでもなぜか彼女が勝つと思ってしまう。現実世界では圧倒的な強さを見せていたが、異世界でもその強さは圧倒的なものがある。この快進撃はまだまだ続きそうだぞ。


「おい、茜、次の相手は半端なヤツじゃないぞ」


「そうなの?」


「あぁ、お前さんの次の相手はアイツだ」


 なんだなんだ。次の相手はボクサーか?。見た目は優しそうな青年といった印象だが、体つきはすごいな。決勝まで進んできているわけだし、まっ、強いんだろうけど、あれなら彼女でもなんとかなるんじゃないか?


「アイツはな、幕之外二歩まくのそとにほと言ってな、闘技場の外で行われている拳闘けんとうで有名なヤツだ」


「拳闘?」


「拳闘ってのは、拳と拳で殴り合う勝負のことだ、アイツはあんな優しそうな見た目だが、強靭な肉体と強烈なパンチ力が持ち味よ」


「わかった」


「下手に打ち合うんじゃねぇぞ」


 そして、ついにCブロック決勝。三笠さんと幕之外二歩の戦いが始まった。最初は距離を取って互いに様子見をしていたが、すぐにしびれを切らし、またも彼女のほうから仕掛ける。すごいスピードで前へ出ると、まずは一発パンチをお見舞いだ。


「バゴッ」


「!?」

(鉄壁のガードでパンチを難なく受ける幕之外)


「この人…ガードが固い」


 両こぶしを顔の前で構えている。これでは相手の顎を打ち抜くのは至難の業だ。こいつは今までで一番強い相手かもしれない。


「じゃあ、僕もいきますよ」


「!?」


「ドゴォォォン!!」


 今度は幕之外が前へ出た。なんてパンチ力だ。三笠さんが簡単にはじき飛ばされた。彼女も初めて苦悶の表情を浮かべている。おそらく、あの優しそうな見た目からは想像もできないパワーなのだろう。ガードの上からでも効いているのがわかる。


「茜ぇぇぇ!そいつのパンチはもらうな!」


「わかった」


 段兵衛さんも応援に気合いが入ってるな。まるでセコンドだ。でも、その声は三笠さんにもしっかり届いている。彼女の顔つきが変わった。これからはパンチをなるべく食らわないようにするつもりだ。


 フットワークで間合いを少しずつ詰めていく三笠さん。相手も警戒してか、簡単には打ち込んでこない。だが、これじゃ互いにらちが明かない。どちらが最初に仕掛けるのか…。


 ――動いた!


「ダダダッ」

(一瞬で距離を詰め、右ストレートを放つ三笠)


「!?」

(三笠がパンチを打つ瞬間に合わせて懐へ入り込む幕之外)


「ドゴンッ!!」


「ガハッ」


 やばい。幕之外から肝臓めがけてボディーブローをもらってしまった。あのハードパンチャーの一発をまともに食らえば、さすがの三笠さんでもやばいはずだ。なんとか立ち続けているが、彼女の足は止まってしまった。


「!?」


 なんだあの動きは。上半身を左右に振りながら彼女へ向かって前進している。これはなんだかヤバそうな匂いがするぞ。おそらく勝負を決めに来ている。


「ドンッ!」

(ガードする三笠へパンチを叩きこむ幕之外)


「ドンッ!ドンッ!ドンッ!」


「ぐっ」

(幕之外のラッシュにガードが崩れそうになる三笠)


 おいおいおい、これは本当にヤバいんじゃないか。あの三笠さんが防戦一方だなんて…。


「このままじゃ…」


「!?」


「バキッ!」

(幕之外のラッシュを咄嗟にしゃがんで交わし、足へアリキックを叩きこむ三笠)


 あっ、危なかった…。さすが三笠さんだ。相手の土俵で戦わず、自分らしさを取り戻してきたか。幕之外もさっきのアリキック一発で表情を歪めている。これはチャンスなんじゃないか?


「ダダダッ」


 その表情を見逃さなかったのか、彼女が前へ出た。相手のパンチが飛んでくると同時に姿勢を低く落として、再びアリキック。おそらく幕之外は足への攻撃をあまり経験したことが無い。これは三笠さんにとってのチャンスだ。


 果たして三笠は幕之外を倒すことはできるのか…。

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