第10話 三笠茜

「三笠茜って言えば、総合格闘技で無敗の…」


「そうです、現在25戦25勝、アマチュア時代を含めれば連勝記録はもっと多いです」


「すごい人がお客さんとして来るんですか?」


「すごいなんてもんじゃないよ!彼女は世間じゃ『最強女子』と呼ばれているんだ」


 三笠茜。彼女は日本の女子総合格闘技では無敗の強さを誇っている。現在はその圧倒的な強さから海外の総合格闘技団体からも声がかかっているのだとか。いまや彼女のおかげで女子の総合格闘技もファンが急増中。大きな盛り上がりを見せている。


「ピンポーン」

(来た!!)


「ガチャッ」


「いらっしゃいませぇ~」


「どうも、予約していた三笠です」


「どうぞ奥へ」


 ついに来た。最強女子の三笠茜が。


「い、いらっしゃいませ、転田生男と申します」


「はじめまして、三笠茜です」


 おぉ~!本物の三笠茜だ。リングの上ではスゴイ体つきをしているが、服を着ている姿は意外に普通だな…。なんだったら、普段の彼女はとびきりかわいいぞ。なるほど、人気が出るのも頷ける。強さだけでなく、可愛さまで兼ね備えていたとは。


「えぇ~、それではまず最初にカウンセリングを行います」


「まずはじめに、どういった転生をご希望ですか?」


「異世界の…、強いヤツと戦いたい…」


「あっ、そうですか、えぇ~っと、モンスターを倒したりするハンタープランなどもありますけど…」


「モンスターもいいけど、人間の強いヤツはいないの?」


 さすが最強女子!強い相手を求めて異世界へ殴り込みってことか。だが、そうなると、異世界の闘技場しかないな。しかし、あそこは男しかいないが…。


「それでは異世界の闘技場へ出場することも可能ですが…」


「じゃあ、それをお願い」


「ただ、異世界の闘技場は男ばかりでして、女性の方は…」


「私、男ともスパーリングで対戦して何度も倒してるんで」


「一応、男性へ転生することも可能ですが…」


「女のままでいい」


 格闘家っていうのはみんなこうなのか?話しているだけなのに、彼女からは目に見えない圧のようなものを感じる。はっ!?これが噂に聞くの覇王色はおうしょく覇気はきというヤツか。たしかに気を抜くと、意識が飛んでしまいそうになる。


 だが、本当に女性のままでいいのか?いくら彼女が強いと言っても、異世界にいる格闘家共も半端ではないぞ。まぁ、異世界での負けは現実世界には反映されないから、彼女の光り輝く戦績に傷がつくことはないが…。


「わかりました、それでは女性のままでの転生とさせてもらいます」


「他には、見た目もご希望などがあれば、お伺いしますが…?」


「このままで…いい」


「そうですか…、えぇ~っと他には…」


「細かいことはどうでもいい、早く異世界で戦いたい」


「あっ、そうですか…わかりました」


「一応、初めての転生ということなので、スタッフが同行にすることになります」


「わかった」


 細かいところの聞き取りをしていないが、闘技場で戦うだけだし、そこまで大変なことにはならんだろ。万が一のときは、私が強制的に現実世界へ戻すこともできるんだ。危ないと判断すれば、転生はそこで終了。


 念のため、インストラクターとして、秀部くんと花ちゃんの両方を同行させるか。二人が一緒なら安心だ。最強女子を頼んだよ。


「それでは転生させますよ」

(転田の言葉に無言でガッツポーズを取る三笠)


「転生だおっ☆」


 フッ――



 今回、三笠茜を転生させた場所は、格闘技を含めたスポーツ全般が盛んな街だ。ここでは様々なスポーツ競技が行われていて、性別や年齢問わず、国内外から多くのアスリートたちが集う。まさにスポーツの聖地のような場所。


 人気が高いのは野球やサッカーに似た球技が多いが、そんな球技に負けない人気を誇っているのが闘技場で行われている格闘技だ。ここでの格闘技は現実世界の総合格闘技に似たもので、ルールもほとんど変わらないらしい。


 昔は武器を使用した殺し合いのようなものが行われていたらしいが、異世界も時代とともに変化していくようだ。今ではすっかりルールが整備され、嚙みつきや金的などを行えば、反則を取られてしまう。


 まぁ、それでも現実世界とひとつ違う部分があるとすれば、それは階級が無いことだ。出場選手は全員が無差別級。だが、それでも体型差をもろともしない戦いを見せる選手も多く、それが一番の魅力だったりもする。


 万が一、最強女子の名が異世界でも轟くようなことになれば、それはとてつもない快挙だ。本当に彼女が男の中に入って勝てるのかはわからないが、見てみたい気もする。最強女子が男共を圧倒する姿を。


「三笠さん、あそこが闘技場です」


「そう…、なら行きましょう」


 三人は闘技場へ着くと、まずは受付。異世界での闘技場は誰でもエントリーできる。だから、街にいる腕自慢達は自分の実力を試そうと、むやみに参加するヤツも多いんだ。なんてたってアスリートだらけの街だからな。


 大半が一定水準以上の肉体やスタミナを誇っている。だから、格闘技なんて知らなくても、喧嘩感覚で参加するようなヤツもいるってわけだ。そういう無謀なヤツらの戦いが見られるのも、闘技場の魅力でもある。


「えぇ~っと、闘技場へ出場するのは、お兄さんで良かったかな?」


「いえ、出場するのは私」


「えっ!?何言ってんだお嬢ちゃん、そんな無茶をしちゃいけねぇ」


「私は、強い」


「へっ?」


「あなた達より、強い」


「いやっ、そうは言ってもね、」


「すごく強い…ので、私はあそこの男共を蹴散らすことが出来る」

(三笠の声に反応して迫ってくる屈強そうな男たち)


 おっ、おいおい、三笠さん。エントリー前からすでにかましちゃってるじゃないか。男共が君の言葉にメラメラしてるぞ。秀部くんと花ちゃんもどうにかしてあげてよ。


「今、そこの女が聞き捨てならねぇことを言ってやがったな?」


「そう、女にバカにされて腹が立った?」


「ま、まぁまぁ、みんな落ち着きましょう」


 試合前から戦って大丈夫か?エントリーできなくなるんじゃ…。秀部くんと花ちゃんも必死で周囲をなだめている。二人を連れてきて正解だった。戦う前からメチャクチャだ。


 周囲の男共が落ち着き――



「じゃあ、お嬢ちゃんエントリーしたからね」


「ありがとう」


「頑張んなよ!」


 受付のおじさんは、いい人そうだな。見た目はどこかのボクシング漫画でセコンドをやってそうな風貌だが、心根こころねは優しい人だ。三笠さんに何か感じるものでもあったのだろう。目が輝いている。


 三笠さんはどうやらCブロックに決まったらしい。各ブロックはA~Dまである。トーナメントを勝ち抜き、最後に各ブロックを勝ち抜いた者同士で戦いを行い、王者を決める。果たして、彼女はどこまでやれるのか。


 いよいよ、トーナメントの開始――



「それではっ、はじめ!!!」


「カーン!」


 トーナメントが始まってからは、出番まで客席で観戦。秀部くんは格闘技が好きなのか目を輝かせているな。花ちゃんも初めての格闘技観戦に興奮したのか、感情が爆発している。だが、三笠さんだけは落ち着いたままだ。


 広い闘技場では四ブロックが同時に戦いを行っている。そのため、トーナメントの進みは非常にスムーズで、一試合、また一試合と彼女の出番が近づいてきた。そして、ついにそのときが訪れる。


「三笠さ~ん!頑張ってぇ~!!」


「ファイトー!!」

(無言で客席に向かってガッツポーズをする三笠)


「えっ?一試合目は女の子?あちゃ~、参ったな」


「…」


「でも、戦いだからね、容赦はしな…」


「シュッ」

(対戦の相手の男の顎を三笠のストレートが打ち抜く)


「バターン!」


「カンカンカンカン!」


「Cブロック勝者!三笠茜!」


「ドオオォォォ!!!!」

(会場がどよめく)


 なんだこれは!すごい!すごすぎる!!三笠さんの強さは異世界でも通じた!相手が女の子だからと油断していたのもあるが、それでも初っ端から的確に顎を打ち抜くのはさすがだ。異世界の男であっても相手にならない。


 それに彼女の尋常ではない強さは、一瞬で会場を沸かせたようだ。客席で見ているその他の選手たちの目つきが急に変わったじゃないか。彼女の強さを見て、気が引き締まったのか?なんにせよ、最強女子の称号は伊達ではない。


「すごいですよ!三笠さん!」


「私、びっくりしました!」


「ありがとう」


 こうして最強女子は難なく、一回戦を勝ち抜いた。

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