第25話
血に飢えた
ヴァンプであるはずの
彼なのに
彼はいつだって
残酷なまでに
「……そのような用ならば
私はこれで失礼します。」
「!……あっ
待って……ネオ!」
私を……
私の血を拒絶する。
燕尾服を翻して、私を突き放すネオの広い背中に
「ご、ごめんなさい!!
もうしないからお願い行かないでっ。」
ドンッとぶつかるようにしがみ付く。
これじゃ、淑女の品格なんて微塵もない。
わがままなただの子供だ。
それでも今は必死に縋りつくしかない、こうでもしなきゃネオは
「ごめんなさい…ネオ、困らせたなら謝るから。もう少しだけ側にいて。まだ身体に残ってるの。」
「え?」
「さっき伯爵に抱き寄せられた感覚が…」
「どこをですか!?
何をされたんですか!?」
「!?」
振り向いてはくれないの。
急に両腕を掴まれて、驚いて肩をすくめる。子供の頃同じくらいだったネオの背丈は、今じゃ見上げても足りないくらいに大きくなった。
急に声を上げるから目を見開くと
ネオはハッと我に返ったように、両手を後ろに組むと一歩下がって咳払いした。
「ルナ様、お願いです。
もう危ないことはしないで下さい。
男性と2人きりになればもっと酷いことをされる可能性だってあるんですから。」
「でも、ネオはいつも来てくれるわ。」
そうよ、だから私は
「男の人が私の大事ところに触れる前に…いつもネオが来て助けてくれる。」
あの危険な遊戯を辞められない。
「それは…お嬢様の用心棒として当然の務めですから。」
怖いくらいに整ったネオの顔立ちが、僅か焦ったように見えるあの瞬間。
私が男の人にいやらしく触れられる瞬間、確かにネオの赤い瞳は燃えるの。
気付いてない?
「ごめんなさい、もうしないから。
仲直りして?」
「お嬢様…私は本当に心配して…!!」
「わかってる、いつもありがとうネオ。」
ふわりと微笑んで、ネオの腰に抱き付く。
近付くと微かに香る甘い薔薇の匂い。
今朝私の部屋に飾ってあった薔薇は
ネオ、貴方が摘んだきてくれたのね。
……他の人じゃ、嫌。
「…困ります、ルナお嬢様。」
「黙って、命令よ。」
鋭い私の口調に、身動きを止めるネオの身体。
私の身体なんて簡単に隠れる程に大きいのに、決して雄々しくない繊細なライン。
回した手を腰から胸に、首から頰に添わせて見つめる。滑らかな肌の感触、人よりずっと冷たい温度。心臓の音は人よりずっと遅く、力強い。
じっと見上げれば、困ったように私を見下ろす
「…好きなの、ネオ。」
美しい朱色の瞳が綺麗。
口から出た心の声に、僅か息を飲む音。
「っ、申し訳ありません、ルナお嬢様。」
続く言葉はいつだって拒絶とわかってるのに
相反する
「お嬢様……ッ」
「っ……ん」
背中が軋むくらいに強く抱き寄せられて
眩暈がする。
重なった熱は
こんなにも心地良く
溶け合うみたいに離れないのに。
「っ……私は貴女の思いに
応えるつもりはありません。」
「あっ、待って…!」
どうして?このまま
私を奪ってはくれないの?
甘ったるい薔薇の残り香と
抱き締められた身体の熱を残して
音もなく目の前から消えてしまった。
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