影廻の秘術学校の門
霧が立ち込める山道を進む中、遠くに小さな塔が見えてきた。その塔は石造りで、高さは5メートルほど。四方に取り付けられた風車の羽根が、わずかな風を受けてカタカタと回っている。
「あれが、秘術学校の外郭結界を示す風車塔だ。」
剣助が指差した。その声にはわずかに感慨が滲んでいる。
「風車塔……。結界と何か関係があるんですか?」
シンが尋ねると、剣助は少し間を置いて答えた。
「この塔は、学校を守る結界の一部だと言われている。風を受けて回る羽根が、結界の力を巡らせているらしい。もっとも、その仕組みを知る者は今では少ないがな。」
近づくと、塔の周囲には苔が生い茂り、長い年月が経っていることが分かる。その中央部分には円形の窪みがあり、そこにもかつて何かの紋章がはめ込まれていたような跡が残されていた。
「ここにも紋章が……。」シンが呟くように指を窪みに触れると、微かな振動が指先に伝わった。
剣助がそれに気づき、短く声をかけた。「触るな。」
その声には普段と違う鋭さがあった。シンは驚いて手を引っ込める。
「何かあるんですか?」
「ただの古い塔だ。」剣助はそっけなく言ったが、その視線は風車塔にしばらく留まったままだった。
◆
風車塔を左手に見ながら、二人はさらに山道を進んだ。霧が薄く晴れ始めると、目の前に荘厳な石造りの門が現れた。その門は左右に太い丸柱を持ち、表面には唐草模様と幾何学模様が彫り込まれている。その彫刻は風雨にさらされながらも、今なお鮮やかさを保っていた。
門の中央部分には円形の窪みがあり、そこにも何か重要な紋章がはめ込まれていたらしい痕跡が残っている。
「これが影廻の秘術学校の正式な入り口だ。」
剣助が立ち止まり、静かに言った。「昔はここに“陰陽輪”という紋章が取り付けられていた。しかし今では失われてしまったようだ。」
「陰陽輪……?」
シンは門に近づき、その窪みを指でなぞった。その瞬間、妙に胸がざわつく感覚が彼を襲った。
「これが無いと、何か不都合があるんですか?」シンが不思議そうに尋ねる。
剣助は窪みに一瞥を投げると、冷静に答えた。「さあな。ただの飾りだったのか、それとも結界を調整する装置だったのか……。誰も知らない。」
そう言いながらも、剣助の目には一瞬だけ陰りが差した。その表情をシンは見逃さなかった。
剣助が門をくぐると、シンもその後を追った。門を越えた瞬間、空気が一変したように感じられた。霧が晴れ、視界がぱっと開けたのだ。そこには、奇妙なほど整然とした道が敷かれていた。固く踏み固められた土の小径が、緩やかに丘を下りている。
道の先には木造と瓦葺きの建物が整然と並び、中央には本堂のような巨大な建物がそびえ立っている。その屋根には白い紙垂(しで)が風に揺れ、どこか厳かな雰囲気を漂わせていた。
「これが学校……。」シンは呆然と呟いた。
「行くぞ。」剣助が短く促した。その声にはいつもの冷静さが戻っていた。
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