第2話 祓い師

ちょっとまって、私、人間食べるんだよね?

ってことは、何も人間の食べ物食べたところで意味がないのかな?

ということは、何も食べ物を買う必要がないから、働く必要はない?

今までの貯金もあるし、欲しいものがもしもあったらその貯金で買えばいいよね。

それで、貯金が足りなくなったらまた働けばいいわけだし。

やったー!

なんもしなくていいんだ。

あ、でも人を殺さなきゃいけないのかな?

食べなきゃいけないし。

どうしよう。

誰を殺そう?

あ、そうだ。

今まで私に嫌がらせをしてきた人たち、殺そうかな。

確か近所の人だったよね。

いい仕返しになるよね。

私がどのくらい強いのかも試したいし。

それにはまず、近所の家、一軒ずつ回って殺そうかな。

確か一人目は、隣の家だったよね。

時々、真夜中にうちの木でできたドアをどんどんたたいたりとか、落書きしたりとかしてきたんだよねー。

時間がなくて、仕返しできなかったけど、今はもう違うから。

覚悟しとけよー、お隣さん。

そう思い、私は隣の家の戸を叩いた。

「はーい。」

返事をしてお隣に住んでいる女が戸を開けて出てくる。

「何の用ですか?」

私は周りを’視‘て、誰もいないのを確認すると、その女の腹に軽くこぶしを入れてみる。

「ぐはっ。」

その女は血を吐いて、その場に倒れた。

白目になっている。

可哀想に。

いい気味だけど。

脈をみてみると、止まっていた。

どうやら、腹に軽く一撃入れただけなのに死んでしまったようだ。

もっと苦しませたかったのに、残念だ。

まあ、誰もいないうちにこの場を去ろうと思い、死体を担いで私は家に帰った。

家に帰ると、私はその女を喰った。

すごくおいしかった。

気が付くと、角がまた出ていたので、急いで角をひっこめた。

気を抜くと角が出てしまうから、ずっと気を張っていなければならない。

何か、角を隠せる服はないだろうか。

街に買いに行こうかな。

そう思い、私は街の服屋へ行った。

「何かお探しですか?」

そう言って、店員の男の人が出てきた。

「えっと、頭部が隠れるような服ってありますか?」

「へえ、、ありませんけど、お嬢さんこの後なにか予定ありますか?」

無いよねえ。

って、え?

もしかして鬼ってばれた?

そんなことを聞いてくるってことは。

「ありませんけど。」

ここは素直に本当のことを言おう。

鬼ってことは言いたくないけど。

「そうですか、なら少し、お話しませんか?」

「何をですか?」

「こちらへ来てください。」

そう言って、その男は、店の外の店と店の間の薄暗い路地の所へ私を連れて行った。

「いったい何ですか?」

男は、私の耳元へ口を近づけ、

「お嬢さん、鬼でしょう?」

と、ささやいた。

ひどく、怖い声だった。

「だったらなんですか?」

きつくにらんで威圧してみる。

まさかすぐにばれるとは思わなかった。

「いえ、この店へ訪れたのは店のものを殺すためですか?」

「いいえ。今日のはもう終わったもの。本当に服を買いに来ただけよ。」

「へえ、そうなんですか。ならいいのですが。」

その男はへらへらと笑ってそう言った。

「もう帰っていいですか?」

「いいえ。私、じつは祓い師なんですよ。」

祓い師、妖怪とかを祓うやつだよね。

私も祓われるのかな?

実体のある鬼だけど、、。

「で?」

「あなたは人間を喰いますか?」

「ええ、喰うわよ。」

「じゃあ、見逃すわけにはいきませんね。」

「鬼で人間を喰わない奴なんているわけがないでしょう。喰わないと生きていけないのだから。」

私は、そう言った。

「それとも、私に従属しますか?」

「従属すると私にどんな利があるのかしら?」

「人間を喰う必要がなくなる。」

「人間に戻る、ということ?」

「いいえ、今の鬼の状態のままで何も喰わなくて生きていける、ということです。」

何それ、超便利じゃん。

「それであなたに何の利があるの?」

「あなたにはその代わりに、私の命じたことをやってもらいます。」

「私のこと殺さない?」

「__ええ、私に従属するのなら。」

「そう。なら、いいわよ。」

どうせ何もやることないし。

あ、そうだ、聞き忘れてたけど、

「給料は?」

「その時によりますが、最低でも衣食住の衣と住には困らないようにしてあげましょう。」

「そう。ならいいわ。」

好条件なみたいだ。

良かった。

「では、この紙に血を垂らしてください。」

祓い師はそう言って、紙を差し出した。

私は、自らの手をひっかいて血を出し、紙に垂らす。

すると、祓い師も血をその紙に垂らした。

「これで、従属の契約完了です。帰りましょうか。」

「服屋の仕事は?」

「もう仕事時間は過ぎているので帰っていい時間です。」

「そうなの。」

「帰りましょう。」

そう言って、祓い師は、手を差し出した。

どうやら私が逃げる可能性をまだ考えているらしい。

従属の契約とやらをかわしたあとだというのに、用心深いものである。

もしかしたら、鬼のことは信用しない主義なのかもしれない。

そんなことを思いながら、私はその祓い師の後について行った。


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