5、Hi-Diddle-Dee-Dee!

 ……まったく、上手くいかないものだ。


 オズワルド社の社長、ハリー=オズワルドは、深いため息をつきながら応接室の窓辺に立っていた。窓の外では雨が降り始めている。机の上には山積みの報告書。その一番上には『実写版ポリコレ姫 興行収入速報』の文字が踊っていた。

 数字は芳しくない。期待されたほどの収益は上がっていない。ネットでは相変わらず批判の嵐が吹き荒れている。まるで10年前の悪夢の再現のようだった。


「そういえば、『あの日』も、こんな雨が降っていたっけな……」


 思わず呟いた言葉が、静かな応接室に響く。そう、あれは10年前。当時まだ専務だった頃のことだ。


「若いクリエイターの感性を信じる――か」


 皮肉な笑みが浮かぶ。あの時もハリーは同じ言葉を口にしていた。あのときの二の舞は、避けたかったんだが。ハリーの思考は10年前へと遡ってゆく。



 ……10年前。当時のオズワルド社は、新しいエンターテインメントの形を模索していた時期だった。

 そんな折、インディーズシーンで話題となっていた“メイド戦士”シリーズに目を付けたのは他ならぬ、当時専務だったハリー自身である。

 作者は日本の同人イベント、いわゆる『コミケ』で同人誌を出し続けており、さらにSNSも巧みに活用してファンを着実に増やしていた。安易な商業主義に走らず、ファンとの距離を大切にする姿勢は、多くの支持を集めていた。

 インディーズ界隈に新しいエンターテイメントの可能性を見い出したオズワルド社は、破格の契約金でメイド戦士のメディア化権を獲得。業界でも話題となった案件だった。


「だが、最初から、お互いの価値観の違いに気づくべきだった」


 最初の1年は、誰もが称賛する黄金期だった。

 作者の斬新なアイデアと会社のノウハウが見事に噛み合い、メディアミックス展開は成功の一途を辿った。ファンサービスにも熱心だったしそれが売りの作家だったから、設定集や制作の裏話を書いた同人誌――いわゆる『スタッフ本』――を出す程度なら会社としても見て見ぬふりで黙認してやるつもりでいた。


 それが、いつからだろう。

 “メイド戦士”の作者は次第に、「ファンサービス」の名の下に暴走し始めた。


 まず、制作時の機密データをそのまま掲載した同人誌を発売。それだけでなく、そこにオズワルド社のクレジットを無断で載せていた。さらには新作の展開予定すら歪めかねない同人続編を、さも公認であるかのように勘違いさせるような体裁で制作・販売した。


「『ファンの皆さんが望んでいるんです』か……そんな言い分が通用するわけがない」


 苦々しい思い出が蘇る。

 グッズを製造したメーカーから「この同人誌にはキャラクター玩具のデータが断りもなく載っていますが、どういうことですか?」と懸念の声。アニメ版を手掛けた制作会社から「この続編は御社公認なのでしょうか? 予定していた続編とは根本的に設定が違うようですが」と問い合わせが入ったときの衝撃。次々と舞い込む取引先からの追及を受け、幹部会議は紛糾を重ねた。

 ハリーはなんとか会社と作者のあいだを取り持とうと奔走した。そのときハリーはこう言って、他の重役たちを説得した。


「彼はまだ若い。クリエイターとしての感性を信じてあげたいんです!」


 ……だが、それも結局徒労に終わった。

 作者との交渉を重ねれば重ねるほど、両者の溝は深まるばかりだった。作者は「ファンのためだ」の一点張り。むしろ「表現の自由を奪うな」と啖呵を切られる始末だった。作者にとって「ファンのため」は何より大切な信念だったのだろう。

 しかしビジネスの論理で言えば、その一途な思いはただの契約違反でしかない。お互いの歩み寄りを探れないまま、結局、作者の契約解除に踏み切らざるを得なかった。

 そしてそれは新たな騒動を引き起こした。

 “メイド戦士”の作者は契約解除になった旨を、すぐさまSNSに投稿した。自分を一方的に正当化するような若干偏った内容ではあったが、それ自体は大した内容ではない。そのときのオズワルド社からすれば巷でよくある、世間知らずなアマチュア上がり商業作家の他愛ない愚痴に過ぎなかった。


 だが、問題は、それを火種にオズワルド社への誹謗中傷が烈火の如く広がったことだ。


 ……大衆はいつだって、分かりやすい構図が大好きだ。

 ファン想いの弱小クリエイターVSビジネスの論理を振りかざす世界的大企業、判官びいきで無責任な大衆がどちらに味方するかは火を見るよりも明らかだった。「クリエイターいじめ」「ファンを大切にする作者を追い出した」「金の亡者オズワルド社」……やがて世界規模の騒動にまで発展し、ひいては会社の株価にまで影響が出てしまった。

 結局ハリーは、作品そのものを封印する羽目になった。何億もの損失を出し、会社の評判は地に落ちた。あのときのことを振り返って、ハリーは今こう思う。


「“メイド戦士”の作者は結局、自分をチヤホヤしてくれるファンのことしか考えてなかった。プロ意識の欠片もなかった。あるいはこちらがもう少し丁寧に説明すれば、分かり合えたのかもしれないが……」


 やがて回想を打ち切り、ハリーは机上の報告書に目を戻した。実写版ポリコレ姫の興行収入予測は、まるで右肩下がりの断崖絶壁のようなグラフを描いていた。このままだと制作費をペイできても、次回作はポシャるだろう。

 ……今回のアリシア=ブラック降板劇。あの“メイド戦士”の件以来、新人クリエイターには少しばかり警戒的になっていた。それでもアリシア=ブラックの情熱に賭けてみたのは、あの懸命で純粋な眼差しに、あのときとは何か違うものを感じたからか。


「……私も、歳を取ったのかもしれんな」


 雨音が次第に強くなってきた。デスクの上には新たな企画書の山。若手からのプレゼンを重ねながら、ハリー=オズワルドは再び窓の外を見つめる。

 その時、秘書からの内線が鳴った。


「社長、最新の興行収入の数字が出ました」

「ふむ」


 受話器を取りながら、ハリーは嫌な予感がした。数字を聞く度に、彼の表情は険しさを増していく。


「……まあ、こんなものか。いや、むしろ少し良い方かもしれん」


 公開から一週間。『ポリコレ姫』の興行収入は、決して満足のいくものではなかった。ただし、これほどの逆風の中、完全な惨敗とまでは至らなかった。これも皮肉なことに、監督降板騒動による話題性のおかげだろう。


「出資者からは?」

「各社から問い合わせが来ております。あと、旧アニメ版を手掛けたスタジオ側からも……」

「ああ、察しはつく」


 ハリーは疲れを感じながら、目を細める。

 ハリーが見るかぎり、実写版『ポリコレ姫』という作品自体の出来は決して悪くなかったように思う。監督降板騒動の反動もあって、従来のファンを刺激しないよう徹底的に無難な作りに徹している。

 だが今にして思えば、問題はむしろその『無難さ』にこそあったのだ。机の上の批評記事の束から、ハリーは一枚を取り出す。業界誌の論評だ。


『『原作へのリスペクト』と言えば聞こえはいいが、要するに何も賭けていないただのコピー、過去作の焼き直しなのだ。アリシア=ブラック監督の降板により失ったものは、単なる演出の新しさではない。作品に対する真摯な思いであり、新たな解釈への果敢な挑戦だった――』


「真摯な思い、ねえ……?」


 ハリーは皮肉な笑みを浮かべる。机の上には、アリシア=ブラックが最初に提出した企画書が置かれていた。表紙ふくめ各ページには所々、アリシア=ブラック自身によるによる熱心な推敲の跡が残っている。


「結局、私たちは何も学んでいなかったのかもしれんな」


 10年前の"メイド戦士"の件は、確かに作者の暴走が原因だった。あのときは、作者が暴走し始めた時点できちんと制御していればどうにかなったのだろう。

 だが今回は違う。むしろ会社の側が、クリエイターの思いを矮小化してしまった。結果、誰も傷つかない、しかし誰の心も打たない作品が生まれてしまった。それはむしろ興行として、いや作品として、最大の失敗であったのかもしれない。


「……社長、新しい企画承認会議の時間です」

「ああ、わかった」


 秘書の声に、ハリーは深いため息をつく。窓の外では、雨がようやく小降りになってきていた。

 とはいえ、ここで立ち止まるわけにはいかない。デスクの上に積み上がっている企画書の山を見る。自分や家族の人生、オズワルド社の社員たちの生活、そしてこの世界のエンタメ業界そのものが自分の仕事に掛かっているのだ。

 ……だから次はもう少し、もっと賢明に判断しなければならない。ハリーは新しい企画書を手に取りながら、次の企画に取り掛かった。



 それから数週間後のことだった。


「社長、申し訳ありません。緊急の報告です!」


 慌ただしく部屋に入ってきた秘書の手には、一枚のプリントアウトが握られていた。いつもの落ち着いた様子は影を潜め、その表情には明らかな動揺が浮かんでいる。


「……なんだね?」

「またしても情報漏洩が発生しました。今度は……」


 情報漏洩!?

 秘書から差し出されたプリントアウトに目を通したハリーの表情が、一瞬にして凍り付いた。某掲示板に投稿された、一連のデータのリストだった。タイトルには『幻のポリコレ姫――アリシア=ブラック版の真実』の文字。


「馬鹿な……こんなデータまで?」


 リストを確認しながら、ハリーの眉間に深い皺が刻まれていく。そこにはアリシア=ブラック版『ポリコレ姫』の企画書、脚本の初稿、キャラクターの詳細設定、さらには制作スケジュールまで。すべて極秘扱いのはずのデータが、赤裸々に列挙されていた。


「流出元の調査は?」

「現在、情報システム部で解析中、ですが……」


 秘書は一瞬言葉を濁し、おもむろにスマートフォンを取り出した。


「……犯人と思われる人物が、自ら名乗り出てきました。SNSでの投稿です」


 画面に表示されたSNSアカウント。投稿者の名前を確認した瞬間、ハリーは思わず立ち上がっていた。


「スミス監督……?」


 投稿者は、アリシア=ブラック監督の元助監督、ポール=スミスだった。降板騒動後は制作に残り、アリシア=ブラックに代わる監督として完成まで携わっていたはずの男。その投稿には、長文の告白が綴られていた。



私は、アリシア=ブラック監督の元助監督を務めていたポール=スミスです。

今回、オズワルド社の極秘資料を投稿します。

なぜ、こんなことをしたのか。

それは、アリシアの名誉を回復させるため。

いいえ、それ以上に、観客の皆様に真実を知ってほしかったからです。

アリシアの『ポリコレ姫』は、決して世間で言われているような「お飾りの起用」でも「ポリコレに媚びた改変」でもありませんでした。

流出させた資料をご覧ください。

彼女がどれだけ真摯に原作と向き合い、新しい解釈を模索していたか。

演出ノートの一つ一つに、どれだけの思いが込められていたか。

私には、アリシアの夢を潰してしまった責任があります。

会社の方針に従い、彼女の降板を黙って見過ごしてしまった。

その罪を、せめてもの贖罪の気持ちを込めて。

すべてを、公開します。

たとえ会社を首になっても、アリシアの真実を世に知らしめたい。

これが私の、最後の助監督としての仕事です。



 子供の頃、学校の卒業文集に書いた「将来の夢」の欄には「映画監督」と書いてあった。

 当時のクラスメイトたちはみな、自分の夢に向かって輝いていた。隣の席だった奴は今や売れっ子作家で、後ろの席の女子は国際的なNGOで活躍している。


 そんな中、ポール=スミスはずっと、助監督のままだった。

 平凡。

 その言葉は、ポール=スミスという男の人生そのものを表していた。身長も体重も、すべてが平均値。成績は下から数えた方が早いわけでもないが、上位に入ることもない。どこにでもいる、誰とでも取り替えが効く、そんな存在。


「才能がないわけじゃないんですが、際立つところもないですね……」


 映画学校の教授にそう言われたときの痛みは、今でも心に刺さっている。

 一生懸命作った自主制作映画は「普通」の評価をもらい、脚本コンテストに応募した作品も「悪くはない」で片付けられた。頑張れば頑張るほど、自分の凡庸さが際立つだけだった。


 そして映画業界に入って数年目。ポール=スミスの経歴に、特筆すべきことは何もなかった。

 大学で映画を学び、なんとか大手映画会社の助監督として採用されたものの、そこから先の階段を上る術を知らなかった。

 同期は次々と監督デビューを果たしたり、あるいは別のキャリアへ転向して自分の道を見つけてゆく中、ポールはいつも誰かの影。


「また今年も、昇進は難しいだろうね……」


 人事考課の度に繰り返される上司の言葉に、いつからかポールは慣れっこになっていた。才能も野心も足りない。ただ真面目に働くだけの、平凡な助監督。そんな日々を重ねるうちに、いつしか三十路を目前に控えていた。

 そんな日々に光が差し込んだのは、『ポリコレ姫』実写化プロジェクトの助監督に任命された日のことだった。


「新人監督のサポート役として、君なら適任だと思ってね」


 上司はそう言って、アリシア=ブラックのプロフィールをポールの机に置いていった。

 黒人で障碍者で同性愛者。一見すると型破りな人選に思えたが、自主映画での受賞歴を見る限り、確かな才能の持ち主のようだった。


「きっと、面白い仕事になるだろう。ポール、君にとってもいいキャリアになるはずだ」


 そういった上司の言葉通り、アリシア=ブラックとの仕事は、ポールの想像を遥かに超えるものだった。


「はじめまして、スミスさん! アリシア=ブラックです! どうぞ、よろしくお願いしますね!……」


 黒人で、障害者で、同性愛者。社会的マイノリティのほとんど全てを一人で背負いながら、それでも天真爛漫な気質と輝かしい才能で道を切り開いていくアリシア=ブラック。そんな特別な存在の隣にいることで、何の取り柄もない自分にも光が当たるような気がした。

 完璧な資料作り、細やかなスケジュール管理、そして気配り。今までは人からろくに褒められたことのないような平凡な仕事が、アリシア=ブラックの前では特別な意味を持った。


「スミスさんって、わたしのことをいつも気にかけてくれるの! 本当にで……」


 そうやって心の底から感謝されたのは、生まれて初めてだった。

 コーヒーを入れると「美味しい!」と笑顔を向けられ、車椅子を押すと「助かります」と言われる。今まで誰からも必要とされなかった自分が、ここでは嵐の中の杖のような、かけがえのない存在になれる。


「助監督のスミスさんって、本当に優秀な方ですよね。経験も豊富だし」


 アリシアからそう褒められた瞬間、ポールは密かな優越感を覚えていた。黒人で障碍者の新人監督、アリシア=ブラック。確かに話題性はある。でも実際の演出は、自分のような経験者が支えるしかない。

 だからポールは進んで“助言”を続けた。それとなく気づかれないよう、細心の注意を払いながら。


「ブラック監督、このカットはもう少し引きで撮った方が……」

「あ、あー、なるほど……」


 アリシアの横で的確なアドバイスを送りながら、ポールは密かに考えた。この映画が成功すれば、きっと自分にも監督としてのチャンスが。10年越しの夢が、特別な存在との出会いによって叶うかもしれない。


「たしかにそうですね! いつもありがとうございます、スミスさん!」


 特別な人からそう褒められて、なんだか自分も特別になれたような気になれた。

 だけどそれが単なる思い上がり、勘違いに過ぎなかったのだと思い知らされたのは、社内で行なわれた完成試写会のときだ。

 諸事情で降板することになったアリシア=ブラックに代わって実写版『ポリコレ姫』の監督を務めたポールは、暗闇の中で爪を立てながらスクリーンに映る自分の作品を見つめていた。


「……これじゃない」


 心の中で呟く。何かが足りない、いや、すべてが中途半端だった。カメラワークは教科書通り、演出は無難、ストーリー展開も平坦。誰も文句は言えないだろうが、誰の心も打たない。まるで自分の人生そのもののような作品。

 そしてそのことは観客たちにもわかっていた。


「さすがブラック監督の片腕だっただけあって、手堅くまとめられてますね」

「ええ、でも何というか……インパクトに欠けますね」

「原作ファンは満足するかもしれませんが、わざわざ実写で観る必要がある作品かと言われると……」


 周囲から漏れ聞こえる言葉の数々が、ポールの胸を締め付ける。

 もしもこれがアリシア=ブラックなら、どんな演出をしただろう。あの企画書に書かれていた大胆な解釈、クレイジーなまでの情熱、そして何より作品への真摯な愛情。


「……スミス監督、手堅い仕事でした」


 プロデューサーに声をかけられ、ポールは引き攣った笑顔を浮かべる。

 「手堅い」という言葉が、これほど残酷に響いたことはない。才能なんて欠片もない自分に残されたのは「手堅さ」だけ。アリシア=ブラックのような本物の輝きなど、自分には最初から無縁だったのだ。

 帰宅後、ポールは机の引き出しを開けた。そこには、アリシアが残していった膨大な演出プランの束。かつて「素晴らしいです、監督!」と褒め称えていた企画の数々を見つめながら、ポールはようやく気がついた。


「……ああ、そうか」


 世界には二種類の人間がいる。特別な人間と、そうでない人間。自分はずっと後者で、ずっと日陰者なのだと思っていた。

 だがアリシア=ブラックの存在は、その絶望的な事実を覆してくれた。


「ああ、そうだ。そうだったんだ」


 何の才能もなくても、取り柄なんてなくても、特別な人間の隣で生きることで自分も特別になれるんだとようやく理解できた。

 だから、


「英雄」「正義の味方」「真実を暴いてくれてありがとう!」


 称賛の声が、心を満たしていく。今やTwitterのフォロワーは15万人を超え、毎日のように取材オファーが来る。高校時代の同級生からも連絡が来た。「すごいじゃん、ポール!」と。

 Youtubeでは「元助監督・ポール=スミスが語る!映画業界の闇」なんて動画が100万回再生を突破した。コメント欄には「ポールさんこそ真のクリエイター!」「正義の味方!」「表現の自由を守ってくれるヒーロー!」なんて声が溢れかえっている。

 ふと気分が高揚し、子供の頃に観た映画の鼻歌を口ずさむ。


「パランパ、パパパ……♪」


 ……会社をクビになるのは分かっている。

 でも、もう何も怖くない。むしろ、その方がいい。「才能ある監督を支持して会社に抵抗した男」という物語の方が、視聴者は喜ぶ。これまで誰からも振り向いてもらえなかった自分に、世界中が注目してくれる。


 そう、これはアリシアのため。

 いや、正義のためだ。


 そう自分に言い聞かせながら、ポールは新たな告発文を書き始めた。演出プランの詳細、会議での発言、スタッフの噂話。すべてがコンテンツになる。

 ハイ・ディドゥル・ディ・ディ、もう止まれない。いや、止まりたくない。ようやく手に入れた自己肯定感が、身体中を満たしていく。

 ハイ・ディドゥル・ディ・ダム 今夜はスター。平凡だった男は、たった数日で業界の良心となった。誰もが耳を傾け、誰もが共感を寄せ、誰もが味方してくれる。

 ハイ・ディドゥル・ディ・ディ おいらはスター! これこそが、自分の求めていたもの! 才能も個性も必要ない、ただアリシア=ブラックという存在について語るだけで、こんなにも輝けるのだ!


「次は、あの演出会議でのことを……」


 暗い部屋の中で、永遠に「普通」から抜け出せないと思っていた男は、キーボードを叩き続けた。今や彼の投稿の一つ一つが、何万人もの人々の心を動かす。今までの人生で味わったことのない陶酔感。

 ……今ポール=スミスがハマりこんでいるそれは、もはやアリシア=ブラックのためでも、ましてや正義のためでもなかった。


 ただ、特別になりたかっただけなのだ。








【独占スクープ】明かされた"もう一つのポリコレ姫"――アリシア=ブラック監督版企画書の衝撃的内容と急変する評価


 実写版『ポリコレ姫』を巡る騒動が、新たな局面を迎えている。情報流出により、アリシア=ブラック元監督が構想していた幻の企画内容が明らかに。その斬新かつ緻密な内容に、ネット上では「これこそ見たかった」との声が殺到。オズワルド社は更なる逆風に晒されることとなった。


・話題沸騰!幻の企画内容

 流出した企画資料には、これまでの『ポリコレ姫』シリーズにない大胆な解釈が展開されていた。特に注目を集めているのが、原作に登場する「王子様の呪い」を現代的な抑圧の比喩として再解釈する試み。膨大な演出プランには、原作の一コマ一コマに対する丁寧な分析も記されていた。


「ブラック監督版の企画書からは、原作への深い敬意と新しい解釈への意欲が感じられる。特に各シーンの演出プランは、長年のファンならではの視点に溢れている」(アニメ評論家)


・"ポリコレ姫の人"の真骨頂

 企画内容の流出は、ブラック監督が長年『ポリコレ姫の人』として活動していた事実と相まって、大きな反響を呼んでいる。


「『ポリコレ姫の人』の動画で『魔法の靴』回の考察を観ていた身としては、あの演出プランを実現できなかったのが本当に残念」(ファンブロガー)


「監督としての構想と、長年のファンとしての視点が見事に調和している。これぞプロのクリエイターだ」(映画研究者)


・及第点止まりの興行成績

 新監督の下で完成した実写版は公開から2週目に突入。興行収入は初週で8000万ドル、世界興収では1億2000万ドルを記録し、制作費ペイの目処は立ったものの、大作の期待値からすれば及第点止まり。観客動員数も伸び悩みを見せている。


「作品自体は丁寧に作られているが、話題性に比べて実際の集客力が今一つ。制作費を回収できる程度の興収は見込めるものの、続編を期待できるほどのヒットとは言えないでしょう」(興行関係者)


・現行版に募る不満の声

 作品の評価も賛否が分かれる。特に、流出したブラック監督版の企画内容との比較で、現行版の物足りなさを指摘する声が目立つ。


「ブラック監督版の企画では、『呪い』のメタファーを通じて現代社会の抑圧を描く意欲的な試みが示されている。それに比べ、完成した実写版は原作の焼き直しに終始している」(映画評論家)


「無難に作られすぎて個性がない。オズワルド社の看板作品としては物足りない仕上がり」(エンタメ記者)


・深まるオズワルド社の傷口、業界内でも疑問の声

 企画内容の流出は、オズワルド社の判断ミスを改めて浮き彫りにした形だ。SNS上では「才能を潰した」「会社の器の小ささ」との批判が相次ぐ。


「流出した企画資料を見る限り、ブラック監督の構想には確かな手応えがあった。それを『ポリコレ採用』と決めつけて切り捨てたのは、明らかな判断ミス」(エンタメ業界アナリスト)


「企画の質は別として、これほど緻密な準備をしていた監督を降板させた判断には、首を傾げざるを得ない」(映画プロデューサー)


 オズワルド社の企業イメージは急落。株価も連日の下落が続いている。当初は「ポリコレ商法」と揶揄されたブラック監督の起用だが、皮肉にも企画内容の流出により、その真価が広く認知される結果となった。


〈関連記事〉

・『幻のポリコレ姫』企画書、ネットで話題沸騰

・ブラック監督、新作で再起なるか

・オズワルド社、株主からも批判の声

・ファン歓喜!ブラック監督版演出プランの見どころ

(文:デイリー・エンタメREAL/エンタメスキャンダル取材班)

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