床の上の天使

栗栖亜雅沙

第1話

 ナース服の紫織が、廃病院の汚れた窓枠から外の様子を窺っている。

 床には、口にガムテープを貼られた男が、裸に白衣を着せられ、後ろ手に縛られている。



「先生、私は先生の手が大好きだった。

 

 覚えてる?

 初めて会った時、私は実習生でドジばかり。

 先生が、優しい笑顔で深呼吸するように言って、緊張で固まっていた私を一瞬で解きほぐししてくれたわ。

 

 先生は、とても厳しくて、近寄りがたいのに、患者さんに接する時の優しい笑顔ときたら!



 先生の手を綺麗だと感じたのは、いつだったかしら?


 患者さんの脈をとっている時に、その手を奪ってしまいたいと思ったのは…。


 私が先生に見惚れて、婦長さんに怒られるのは、日常茶飯事。

 でも、それは、いつだって、婦長さんは怒るものと決まっているの」

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