第19話、メイドタンデム

街道にあらわれたロックワームの群れ。

 災害の原因はロックワームだったようだ。

 ルリさんと二人で追い払った。

 インベントリにメイ竜騎士ドラゴンナイトの装備を収納する。

 ゆったりとした商人の格好になった。


「大丈夫でしたか」

 自分はルリさんに声を掛けた。

 まわりは、ロックワームに耕された?山の街道。

 足場はかなり悪い。


「ええ、助かりましたアレクさん」

「あなたは、……強いのですね」

 スッとこちらを探るような目。


「いえいえ、言うほどのものでは」

 彼女からの視線を外した。

「え~と、ルリさん」


 山道の端は厳しい崖になっている。

 いくらルリさんクラスのメイドでも徒歩で越えるのは危険だ。


「どうですか、街まで飛竜に乗っていきませんか?」

 ジラント(飛竜)の背中には補給物資をのせた鞍。

 物資を入れれば、二人乗り(タンデム)が可能である。

 

「そう……ですね、また街道にロックワームが出るかもしれませんね」

 ルリさんが顎に指をあてて考える。

 自分は静かにうなずいた。

「……分かりました乗せていってくれますか?」


「はいっ、よろこんでっ」

 ~~~~やっ、やったああ、ルリさんと、メイドさんと、あこがれのタンデム飛行だあああ

 メイ竜騎士ドラゴンナイトが一度はあこがれるメイドさんとの空の旅。

 くううう

 喜びをかみしめる。


「?」

 少しルリさんが怪訝そうな目をした。


「ささっ、どうぞ」

 自分の後ろの鞍にルリさんが横すわりする。

「腰に腕を回してください」

 腰に感じるメイド服のスカートのフワリとした感覚。

 背中にルリさんの肩が軽く当たる。

 甘い香りがした。


 八ッ


 ――おいおい、考えてることがばれると嫌われるぞ


 と振り向いてこちらを見ているジラントの目がそう物語っていた。


 キリッ


 緩んでいた顔を引き締める。


「ではいきます」


 ブワリ

 バサア、バサア


 翼の端に軽量化の魔術陣を光らせながら、ジラントが羽ばたく。

 崩れた街道から厳しい崖に飛び出した。


「ひゃあっ」

 飛竜で空を飛ぶのは始めてなのか、ルリさんが可愛い声を出す。


「気分が悪くなったり怖くなったらすぐに言ってください」


「わ、わかりました」



 厳しい山々。

 崖に飛び出すように作られた街道。

 下を見ると崖の下には、川の流れが微かに輝いている。

 遠くの山の斜面には、ところどころ薄い紫色の霞(かすみ)がかかっていた。


 ジラントは、アレクとルリを乗せて渓谷の真ん中を滑るように飛ぶ。


 壮大な自然の風景に、


「きれいねえ」


 ルリは思わず声を出していた。


「ふふ、少しつかまって下さい」


 ヒュッ


 ジラントの体を傾け《ロールさせ》崖下まで一気に高度を落とす。

 

「きゃっ」

 ルリが可愛い悲鳴を上げた。


 ザザアアア


 ジラントの足を河の水面につけた。

 水しぶきが後ろに白い線を引く。

 

「後ろを見てください」


「まあっっ」


 白い線の周りに、丸く小さな虹が出来ていた。


「……きれい……」


 ルリの頬が少し赤く染まる。

 背中越しにアレクの顔を見上げた。


「どうです」

 アレクがルリに優しく笑いかけた。


「とてもきれいよっ」


 キュッ


 ルリが、アレクの腰に回した腕に力を入れて、体をさらに寄せた。


「うっ、もう一度行きましょう」

 アレクの声が上ずった。


「はいっ」


 二人は、何度か川面に出来る小さな虹を楽しんだ後、鉱山都市に向かった。



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