第11話、メイドコデモドア~

 パタリ


 ギルドの扉が音を立てて開いた。


 入口には、肩までの金髪の女性。

 175センチくらいの身長。

 糸目で穏やかそうな顔だ。


 ――百八あるメイド殺法さっぽうその0、メイドスタンディングちっ


 入口の女性は、”メイド服”を着ていた。


「メイドさんはいるかしら~」

 金髪、メイド服の女性が言った。


「…………」

 ギルドにいる人が、お互いの顔を見合わせる。 

 その後、静かに入口を指差した。


「フローレス、メイドチョー(師匠)ッ」

 ――”メイドチョー”と書いて、”師匠”と読むのよっ

 私は驚きの声を出した。


「ルリちゃん、お久しぶりね~」

 ゆっくりとしゃべりながら近づいて来た。

 

 今私は、


「百八あるメイド殺法さっぽうその3、”メイドお茶会”っ」


 でコーヒーを飲んでいる所である。


「コーヒーいります?」

 私のコーヒー好きは師匠ゆずりだ。


「いただくわ~」


「じゃあ、仕事に戻るわね」

 エリザベスと入れかわるように、フローレス、メイドチョー《師匠》が椅子に座った。


決闘メイドバトルしたんでしょ~」

 メイドチョー《師匠》の前にコーヒーを置く。

 

「はいっ」


「確か、”ホウゾウイン”さんとこの、”レイカちゃん”」

「身長が低くて、(ホウゾウインの主武装である)物干し竿が持てなくて、長箒ながぼうきしか使えない~て泣いてたっけ~」

「どうだった~?」


「え~と、何というか、試合には勝ったけど勝負には負けたみたいな」


「ま~」


「だって、”ご主人様持ち”だったんですよ」

「私より年下なのにっ」


「それで、ひきこもっちゃったの~」


「くっ、ご主人様との間に五人の子供がいるメイドチョー《師匠》に、私の気持ちはわからないですよっ」


「まあまあ」

 メイドチョー《師匠》が私を宥めるように言う。


「メイドチョー《師匠》、ご主人様をどうやって見つけたんですか?」


「ん~、そうねえ~」 

 メイドチョー師匠あごに指をあてる。


「”メイドソウル”がささやいたわ~」


「”メイドソウル”がささやくのですか?」


「この人が私のご主人様~てね~」


「ささやくのですかー」

 私は納得しがたいような声を出した。



 その時、何人かの冒険者が入って来た。


「うおっ」

「メイドさんが二人いる」

「二人とも美人さんだあ」

「ていうか、一人はルリちゃんじゃねえか」

「ほんとだ」

「ルリちゃん、美人だけど中身がねえ」

「残念だから」

「なにせ、”マッドメイド・ルリ”だしなあ」


「そ、そこおお」

 威圧する。

 ギルド内で、”残念美人”の名をほしいままにしている私であった。 


「じゃあ、そろそろ、帰るわ~」

「ルリちゃん、元気でね~」


「メイドチョー《師匠》もお身体をご自愛ください」


「ありがと~」


「百八あるメイド殺法さっぽうその79、”転移門メイドコデモドア~」


 テッテレ~(VC、例のアレ)


 メイドチョー《師匠》はスカートの中からトビラを取り出した。


 ガチャリ


 開けた先は、メイドチョー《師匠》の家である伯爵カウント領だ。


「また来るわね~」

 扉をくぐる。


「お待ちしております、メイドチョー《師匠》」

 扉が閉ったあと、消え去った。


「……何気にすごいことしたわね今……」

 エリザベスのつぶやきが聞こえた。


「あらっ、メイドチョー《師匠》は時空系のメイド殺法さっぽうが得意よっ」

「時間まで止めちゃうんだからっ」

 自分のことのように自慢げに言う。


「……瀟洒なメイドチョーなんだ」


「そ」

 私はニコニコと笑いながら言ったのである。

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