第6話、メイド影隠れ(インシャドウ)
メイド。
それは、その家の、”顔”と言っても過言ではない。
今私はこの一帯を領地に持つ大公家の館に来ていた。
ドラゴンとゴブリンキングの討伐。
スタンピードの阻止の褒美をもらうためだ。
「……ふむん」
私が着ているのはクラシカルなエプロンドレスだ。
ロングスカートのワンピース。
長そでの肩は少しふくらんでいる。
その上に白いエプロン。
頭にはホワイトプリム。
だが、この屋敷のメイドは、
袖なしのワンピースにミニスカート。
膝丈のスカートだが、上着とはセパレートでお腹が見えている。
その他、メイドの大半が煽情的なメイド服を着ていた。
客が来ているのに端の方に固まって話をしている者もいる。
それと人数が多い。
「むむう」
――嫌な予感が
うなっているうちに大公の部屋まで案内された。
「来たか、君が話に聞いていたメイドだね」
小太った男性がソファーに座っていた。
「くっ」
上から下までなめ回すようないやらしい視線。
「ぐふふふ、いやあ、なかなかの上モノじゃあないか」
「にこりともしないのもいい」
「……ご用件を」
私は立ったまま言う。
「いやあ、君をこの私のメイドにしてやろうと思ってね」
「はあっ⤴」
私は、思わず不愉快さを隠せない声を出した。
「大公である私が、情けをくれてやると言ってるんだっ」
両手を前に出してにじり寄って来た。
ゾワワワワワ
背筋を何か気持ち悪いものがかけ上がる。
「お断りします」
「このことはギルドを通して正式に抗議させていただきます」
「はっ、たかがメイドの分際で生意気な」
黙って部屋から出た。
ご主人様からのお手付きはある意味メイドにとって、”
が、
――あれは無いな
屋敷はちょっとした、”メイドハーレム”なのだろう。
「ふう」
後をつけてくる男たちの気配を感じながら、私は軽くため息をついた。
昼なお暗い街の裏通り。
「おおっと、メイドさんよお、ちょおっと来てくんねえかなあ」
ガラの悪い男が、私の前に立ちふさがりニヤニヤと笑う。
「痛い目を見たくなかったら黙ってついて来た方がいいぜえ」
10人くらいの男たちにかこまれた。
まあ、私が人気のない場所に、男たちを誘いだしたのだが。
「げへへへへ」
げひた笑いを浮かべながら男たちがにじり寄ってくる。
「ふう、百八あるメイド
私のまわりに光り輝く強者の
「ぎゃ、ぎゃああああ」
「ひいいいいいいいい」
メイドとゴロツキ。
人としていや、”生物”としての格の違い。
上位の存在から放たれた
「ひいいい」
あるものは腰を抜かし、あるものは頭を抱えて丸くなった。
「大公の命令ですね」
「い、言えねえ」
ドンッ
「うぎゃあああ、そうだっ」
「大公に言われたんだっ」
「見逃してくれええ」
「そう、わかったわ」
ドドンッ
さらに、
白目をむいて失禁しているもの多数。
「……お仕置きが必要ね……」
「百八あるメイド
ゴボリ
ほの暗い裏通り。
その影の中に、メイドが足から静かに沈んで行った。
「ぐふふふ、まだか、まだか」
小太った男が気持ちの悪い声で言う。
ソファーに座っている男の後頭部が見えた。
大きなベットがある大公の寝室だ。
風呂に入ったのかワードローブを着ている。
そのまま、私とお楽しみのつもりなのだろう。
ゾッとした。
片手にはワインの入ったグラス。
テーブルに置かれたつまみのチーズに手を出した。
ダンッ
私が投げたカトラリーのナイフが、大公の左手の平を貫通。
テーブルに縫い付けた。
「ぎゃっ……」
「わめくな」
大公の口を手で後からふさぐ。
「ぐっ、むー、むー」
「舐めた真似をしてくれたな」
背後から右手で口をふさぎ、左手で刺さったナイフを人差し指で優しく撫でる。
パッ
私の左手の甲に、光り輝くメイド紋を出した。
私を表す複雑な、”花押”が空中に浮かび上がる。
「むっっ!!」
「”メイドの穴”……わかるな?」
私が諭すように言う。
大公が、コクコクと何度も首を縦に振った。
「二度と私に関わるな」
「今夜のことを人に言ったら……」
「ぎゃっ……」
人指し指と親指でナイフをつまみ、ぐりぐりしながらゆっくりと抜く。
「百八あるメイド
小さくつぶやきながら影の中に沈んで行く。
「がっ、はあっ、はあっ、はあ」
「ひ、秘密結社、”メイドの穴”っ、本当にあったのか」
大公の声がかすかに聞こえた。
メイドは光り輝く日の光もよく似合うが、ほの暗い漆黒の影もまた、情事の際の香水のようにふわりと匂うものなのである(キリリ)。
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