第28話

「あっ!あの・・・少々お待ち下さい!」


私を見ると受付嬢がそそくさと冒険者ギルドの2階へと上がって行く


ギルドに来た理由はただダンジョンの入場手続きをしに来ただけなのだが・・・あの慌てようはなんだ?もしかしてラウル達が見つかったとか・・・


「お待たせしました!ギルド長がお話があるとの事なのでどうぞ2階に」


「ギルド長が?」


降りて来た受付嬢の言葉に私達は顔を見合せ首を傾げた




言われるがまま2階に上がった私達は奥にある部屋をノックするとドアを開ける。部屋は机があるだけのシンプルなもので、椅子に座り何か書き物をしていた男が私達が部屋に入ると顔を上げた


「『風鳴り』サラ・セームンか・・・待ってたぞ」


野太い声でそう言うとギルド長と思われるその男は椅子に背中を預け私を見るとニヤリと笑う


髭が良く似合う偉丈夫・・・現役の冒険者と言われても疑いはしないだろう


「何の用です?早くダンジョンに行きたいのですが・・・」


「ちょ、サラ姐さん!」


「いい度胸だ。その度胸を俺にじゃなくて違う所に使ってもらいたい」


「?」


「ダンジョンの調査・・・何があっても対処出来る高ランク冒険者は今んところお前さんだけだ。まあお使いみたいなもんだな」


「調査・・・何か問題でも?」


「今朝方職員が入口付近の異変に気付いた。二又だった道が三又になってたらしい。1階に繋がる道とゲートの部屋への道・・・で、もうひとつ・・・その先に何があるかを見て来てくれ」


また新たな道が?ゲート部屋はこれまでのダンジョンでも見かけたが・・・


「報酬は?」


「ボランティアだ」


「・・・冗談でしょう?」


「本気だ。まだ開業して間もない貧乏所帯でな・・・払える金がない」


「ではお断りします」


「俺が頭を下げてるのにか?」


「下げている光景を見てないのですが?」


「心の中じゃ低頭平身よ。ただ表に出すにしても・・・なあ?」


ギルド長は私ではなくケン達を見た。なるほど・・・そういう事か


「どうやらギルド長はケン達にみっともなく頭を下げる姿を見られたくないらしい。ひとまず先に降りていてくれないか?後でギルド長の頭の薄さまで細かく教えてやる」


「え?・・・は、はい・・・」


戸惑いながらもケン達は部屋を出て1階へと降りて行く


ギルド長は2人きりになると頭を掻いて苦笑いをしながら立ち上がった


「・・・そんなに薄いか?」


「さあ?気になるのなら鏡で見てみてはどうですか?フリップギルド長」


冷たいな・・・元気していたか?サラ」


ギルド長は目の前に立つと馬鹿力で私の肩を叩く


フリップ・レノス・サムス・・・それが彼の名前。以前マーベリルでギルド職員として働いていた。ダンジョンで足を怪我して引退し職員になったらしいが冒険者の頃は第一線で活躍していた実力者・・・だったらしい。その彼がエモーンズのギルド長とは・・・


「出世おめでとうと言った方が?」


「よせやい。アケーナダンジョン以来二つ目の街中に出来たダンジョン・・・ギルドすらなかったこの村で立ち上げから何からやる身にもなれってんだ。どうせ軌道に乗ったら難癖つけて国の犬が送られて来るに決まってる」


「なるほど・・・その時は素直にギルド長の職を譲るつもりですか?」


「ハッ!その時は国に従い譲るさ・・・が、そうならないようにする為にもお前さんの力が必要だ」


「具体的には?」


「その都度頼みたい事は変わるから何とも言えねえが、今回みたいな調査や冒険者達の事で困った事があったら相談したい」


「・・・私には何も得になる事がないのですが・・・」


「俺に恩を売っておく・・・ってのじゃダメか?この村にしばらく残るなら長い目で見りゃ得になるぜ?」


確かにギルド長であるフリップに恩を売るのは何かと得になる事もあるだろう。しばらくここに・・・せめてローグ様にまた会うまではここに留まるつもりだし・・・


「一応恩って目に見えない恩恵とは別に目に見える恩恵も考えている。例えばダンジョンの入場料を免除・・・ただ支払ってもらった後に返すような形を取らしてもらうがな」


「・・・ダンジョンのフリーパスみたいなものですか・・・それは助かりますがなぜ一度払う必要が?」


「ひとつは他の冒険者に知れたら面倒だからだ。特権を与える訳だから嫉妬とか色々あるだろ?毎日ダンジョンに通ってる奴からしたらかなりの恩恵になるからな」


「確かに・・・ひとつはって事は他にも理由が?」


「・・・もうひとつは気軽に口に出来ねぇ・・・が、俺の頼みを聞いてくれるなら教えてやる」


「もったいぶっている・・・訳ではなさそうですね」


「まあな」


人払いが必要だった理由か


どうする・・・面倒事を頼まれる可能性が高いけど、見返りとしては充分だ。ダンジョン入場料の免除だけでも大きいがギルド長に恩を売るのもかなり大きい


ただ気軽に話せない事を教えるのだ・・・簡単にはやめさせてはもらえないだろう。それこそこの村に留まっている間は・・・


「・・・こちらの願いも聞いてもらえますか?」


「内容によってだ」


「・・・情報の共有・・・」


「さすがに機密事項は言えないが望んだ情報が開示しても問題ない情報なら教える・・・これでどうだ?」


一個人の冒険者の情報なら機密にはならないだろう・・・ならば・・・


「・・・ではお受けします。払った入場料はギルドで保管しておいて下さい」


「しっかりしてるな。貯めて家でも買う気か?」


「結婚資金に」


「・・・そ、そうか・・・相手は?まさかさっきのメンバーに・・・」


「まさか・・・いずれ結婚する時の為ですよ。そんなにおかしいですか?」


「いや、まあ、うん・・・おかしくはないぞ?」


何故か動揺するフリップ・・・やはりおかしいのだろうか・・・


「それで?一度入場料を払う理由のもうひとつは?」


「あ、ああ・・・これは知ってる者は知ってるが口外無用だ・・・ギルドが発行しているギルドカードがあるだろう?入場許可証を渡す時にギルドで預かる・・・」


「ええ」


「あのカードは身分証にもなるがもうひとつ重要な機能が備わっている。今カードはあるか?」


ギルドカード・・・名前とランクを証明するカード・・・ダンジョンに入場する際にはこのカードを受付で渡し入場料を払うと入場許可証が渡される。そしてダンジョンから帰った際にギルドから返されるのだが・・・


私がギルドカードを取り出すとフリップはカードに書かれている名前の横を指さした


「ここに魔核の欠片が埋め込まれている。もうマナを抽出し終わったマナを溜める事も出来ないただの欠片・・・けどこの欠片が教えてくれるんだ・・・持ち主の生死をな」


「え!?」


「ギルドカードを作る際に必要な手順は覚えているか?」


手順は・・・渡されたカードに名前を書き、本人と認識させる為にマナを・・・流す


「まさか・・・」


「そう・・・認識させる為にマナを流す・・・どう認識しているか分からずただのまじないみたいに思ってる者も多いだろう。けどあれは本人とギルドカードの魔核を繋げる為に必要な工程・・・マナを受けた欠片と本人は繋がり微量ながらマナの供給を得る。すると欠片は僅かに淡く光る・・・気付かない程度にね」


知らなかった・・・恐らくフリップが言うようにかなり微量なのだろう。溜めることは出来ないから常にギルドカードの欠片に・・・あっ


「気付いたか?ある程度離れていても繋がりは持続する。が、供給が止まると・・・」


「欠片は輝きを失う・・・つまり持ち主の死って事ですね?・・・しかし別にこれは知られても問題ないのでは?」


「問題はない・・・けど知られてないと利点はある・・・って、ところだな」


「?と言うと?」


「例えばだ・・・冒険者がギルドカードを奪われて殺されたとしよう。奪った奴はその冒険者になりすまし・・・なんて事をするとどうなる?」


「あっ・・・繋がりは途切れているから欠片は光を失ってしまう・・・」


「そういう事だ。まあ、知っていれば奪った奴がギルドカードにマナを注いじまえばそれまでだけどな・・・知らなければノコノコと繋がりを切られたギルドカードを持って来て・・・ってな感じで捕まえる事も出来る。抑止力にはならねえが捕まえる事が可能かもしれねえ・・・だからギルドは率先して教えてないし、冒険者が知る必要もない事だ」


確かに知る必要はないかもな。そのギルドカードの機能が働く時は死んでいる時・・・役に立つ事はない


しかし・・・そうか・・・パーティーがダンジョンで全滅したら本来はそれを知る術がない・・・けどギルドはギルドカードを預かっているからカードが光を失えば・・・ギルドはその死を把握出来る


死を知られるのはいい事なのかもしれない。残された遺族にすぐ報せる事が出来るし無駄に探さなくてもいい。けど・・・私は知っている・・・冒険者の中には生きる事に絶望しわざと死ぬ者がいる事を・・・その人は自分の死を知らせたくないかもしれない・・・けどギルドは・・・


「そう難しく考えるな・・・って言っても無理か・・・まあ冒険者に言わないのはそういうところかもし知れないな・・・」


「・・・そうかも・・・知れませんね」


知らなくても特に不利になる事はないのに・・・知ってしまうと余計な事を考えてしまう・・・もしかしたら他にもギルドは・・・いや、国は隠している事があるのではないか、と


「・・・早速調査頼めるか?・・・あー、それとギルドカードの事を話したからようやく話せるが・・・お前さんの前のパーティーメンバー・・・全員死んでるぞ」


「!・・・それは本当ですか!?」


「ギルドカードの事を知らなければどうやって知ったか追求されると思って言えなかったが・・・お前さんが襲われた次の日くらいにはもう・・・」


「そう・・・ですか・・・」


思いがけないタイミングでラウル達の死を告げられて動揺してしまった。過去に彼らがやって来た事が事実なら天罰が下ったという事か・・・


「・・・まあ忘れろとは言わねえけどもう警戒しなくていいから安心しろ。・・・それと今のパーティーでしばらくやるんだろ?もう少し砕けたらどうだ?マーベリルの時から思ってたけどお前さんはパーティーメンバーと壁を作ってるような・・・喋り方から硬すぎる」


「・・・いつ離れるとも分かりませんので・・・」


仲良くしてしまうと・・・もしまた必要ないと言われたら・・・


「そうか・・・まあ無理強いはしねえよ。じゃあ、頼んだぜ」


「・・・はい」


ラウル達は死んだ


魔物に殺されたか・・・もしくは・・・


これで警戒しなくて済む・・・ケン達といる必要も・・・ない



部屋を出て階段を降りるとみんなが私を笑顔で迎えてくれる


その笑顔に私は・・・自然と笑みが溢れている事に気が付いた


・・・もう少しこの子達と冒険しよう・・・そしてその間に彼を・・・ローグ様を見つけよう・・・聞きたいことが沢山ある・・・助けてくれた時の事、ラウル達をどうしたか・・・そして・・・私は好みかを!

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