高飛車令嬢、異世界に強制召喚!まさかの全力で『変身』と叫びます!彼女の心が溶けるまで

来叶夢|Rycom

第0話 勇者が堕ちた日

時は暁暦1027年 地球とは異なる地、エルディア・双神流の里


《Ω:BOOT SEQUENCE INITIATED》

AIの無機質な言葉が、夜の静寂を貫く号令のように響いた。


Σシグマ、ここからは誰も死なせない。この場にいる全員の座標を捕捉して、

魔力障壁とエネルギーフィールドを展開。モニタリング開始」


《警告:カイ様、それはマスターに過度な負担を強いる行動です》


「僕なら……大丈夫。もう、誰も死なせたくないし、それに魔力量には自信がある」


《本プログラムはマスターの生命保持を最優先に設計されています》


「なら、解除だ」


《……本当に、よろしいのですか》


「あぁ、構わないよ、Σシグマ。お願いだ」


《アクセプト。生命保持プロトコルを再構築──全周囲対象に適用、最優先対象:解除。》


空間中に微かな揺れが走り、魔力の粒子が収束する。


オメガライザー内部で点滅するHUDの警告が、突如、色を変えた。

《緊急アラート:1名に著しいステータス異常を確認》


「……誰だ!?」


《対象:個体名:高円寺凛こうえんじりん。魔力残量─90%、70%、50%、30%…10%。急激な下降を確認。》


「っ……解析! Σシグマ、原因は!」


《すでに解析進行中。推定要因:正体不明の魔力干渉。禁呪もしくは禁魔道具の影響が疑われます》


「くっ……リジェクトできる!? 抵抗手段は!?」


《……不可能です。干渉強度が特異な波形を示しています》


その刹那、デルタの音声に割って入るように、再び警報が鳴り響く。


《凛様に向けて魔力圧縮砲撃、今の凛様では恐らく耐えられません。

 到達まで0.8秒──》


「座標補足、緊急空間転移! Σシグマ、今すぐだッ!!」


《アクセプト──フルバースト転移モード、起動》


空間が一閃、深紅の軌跡を引いて海の姿がかき消える。


その直後。


──空が、裂けた。


高空から落ちる流星のごとく、漆黒の影が戦場に着弾する。


「……凛ッ!!」


血に塗れ、崩れ落ちた彼女の姿。呼吸は浅く、魔力の波長はほとんど感じられない。


Σシグマ、すぐに回復を! よかった、まだ息がある。助かる……まだ……!」


《対象、魔力断絶状態。魔法による回復処置──不可能》


「そんなの……あんまりじゃないか……っ!!」


振り上げた拳が地面を叩き、地を揺らす。


その時だった。


フィリアとシャルロットが駆け付けた。


「海っ……!」


「どいて、私が……」


シャルロットの目に怒りと焦燥が滲む。


直ぐにそ蘇生魔法の詠唱を始める……

『この世に生きとし、生ける者よ我が命に応じて....リ.ジェネレーション』


杖を握る手に魔力が集束し、詠唱省略の蘇生魔法が発動。


凛の身体を包む淡い光……だが──その光は、沈黙のまま儚く散っていった。


「そんな、蘇生魔法よ……心拍が確認でき……ない」


シャルロットが呟いた。

その声が、戦場に鋼のように冷たく響く。


「……うそだ、……ま、まだ完全回復薬フルポーションが……シャルロット様、もう一度……!」


「海……やめなさい……彼女は、もう──息をしていないの....」


フィリアはその場に膝をつき、震える手で口を覆う。


「そんなわけ……そんなわけな、い……」


海は、凛の肩を抱きしめながら揺さぶる。


「凛、目を開けて……! ねえ、お願い....だから...」


彼女の腕が、海の手からふっと落ちた。


「……っ……凛……」

返事はない。


「凛ッ!!」


戦場を包む沈黙が破られた。


海の絶叫が雷鳴のように響き、空を裂いた。雲は引き裂かれ、

黒い雨が舞い始める。


「何のために……僕は、力を……」


天照アマテラスが、彼の手から滑り落ちる。


それは大地に突き刺さり、周囲の魔力を吸い込むように鈍く震えた。


「こんなに強くなっても……守れなきゃ……意味なんか、ないんだよ……っ」


嗚咽おえつが、嗚咽おえつを呼ぶ。


膝をついた海の背を、灰色の空が覆っていた。


それは雨か、涙か──誰にも分からない。


彼の背に走る絶望は、誰にも癒せなかった。


両膝をついて泣きじゃくる彼の姿を、灰色の空が静かに見下ろしていた。


──この瞬間、海の心は、音もなく崩壊し、その目から光が消えた....。


ただひとつ確かなのは、


この瞬間、*“2人の勇者が堕ちた日”*として、

人々の胸に刻まれたということだった。

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