第3話 教会からの依頼・上
二人は見覚えのあるおんぼろの家の前に立っていた。
「わあ、非常に趣深いお家ですね!」
「お世辞はいい、さっさと入るぞ。お前は一言も喋んな。」
「いらっしゃい、ああレイ坊か。どうした、今回は依頼を受けるスパンがやけに短いじゃないか。」
「そんなことはどうでもいいんだよ、それより依頼をくれ。二人分の宿屋の値段を賄える程度のな。」
「そういえばその別嬪さんは見たことのない顔だな。いや待てよ、そうかそうかお前にも春が来たんだな。」
そう言われた瞬間レイノワールは不機嫌な表情を露わにする。
「はっ、こいつはただのストーカーだ。」
「え、ひどっ!」
「ふむ、まあそういうことにしておこう。そして依頼だったか。これはどうだ?」
そう言って店主は一つの資料を差し出し、レイノワールはそれを受け取った。
「これは?教会からの依頼のようだが、よくこんなところに依頼をもってきたな。」
「まあまあ良く聞け。これはいわくつきの依頼でな、表で出すにはちと危険すぎる。とはいえ現場が教会だ。裏社会に慣れてないお嬢ちゃんを連れて行くにはちょうどいいだろう。」
「いらぬ気づかいだ。だがまあこの依頼を受注しよう。」
話がまとまった後二人はそこから去った。
その後中心街にある宿まで戻ろうとする際、やけに回りが騒がしいことに気づいた。
「なんなんでしょうね、この騒ぎ。まあ私は大歓迎ですけど!」
「お、そこの二人もどうだい!?串焼き、今なら安いよ!!なんてったって今日は勇者祭だからね!」
突然屋台で串焼きを売っていたおばさんに声を掛けられる。
「勇者祭ってなんですか?」
「おや、このお嬢さんは異国から来たのかな?勇者はこの国の英雄なんだよ。なぜなら……」
「この国の天災であった吸血種の真祖を討伐したから、だ。」
「お、お兄さんよく知ってるね。今日はその勇者様の生誕祭なんだ、だから王都も賑わっていてね。」
「へぇ、そうなんですか!」
「店主、串焼きを一本くれ。」
「お、あいよー!」
そう言って話の流れをぶった斬ってレイノワールは銅貨を差し出し商品を受け取りその場を立ち去る。
それを見て驚いたようにオレリアナは彼を問い詰めた。
「ちょ、急にどうしたんですか、折角色々知れると思ってたのに。」
「うるさい、こんな生産性のない会話などするな。代わりにこれやるからいいだろ。」
そう言ってレイノワールは先ほど買った串焼きを差し出す。
「え、やったー。パクッ、おいしーー!レイさん美味しいですよ!レイさんも、って一本しか買ってないんですか!抜けてますねー。」
「違う、オレには必要ないだけだ。」
「ふーんそうなんですか。まあとりあえず宿まで行きましょ!」
俺は最初からそうするつもりだった、とでも言いたげな苦々しい表情をしているレイノワールのことになど気づかずオレリアナは歩みを進める。
「あれ、レイ君じゃないか」
「ん?お前はシュヴァルツか。なんでこんなとこにいるんだ。」
宿へ着く途中に急に声をかけられたが、その正体は吸血種であるはずのシュヴァルツであった。
吸血種は太陽に弱く昼は出られないはずだが、彼は日光を吸収する黒いローブに全身を包み昼に出るのを可能にしていた。
「まあと言っても出られるのは短時間だけだけどね。」
謎の解説が入ったがつまりそういうことだ。
「しかしなぜこんな時間に外に出ているんだ。」
「いやー、吸血種だけの空間は閉鎖的でね、ニンゲンのいる世界に出ていた方が面白い。」
「ふむ、そういうものなのか。」
「と言ってもレイ君も一緒でしょ?むしろ僕はローブを身につけなくても昼間に外に出れるレイ君が不思議で仕方ないんだけど。」
「それは企業秘密だ。」
「ふーん、まあそういうことにしておこう。」
「あの、お二方何を喋ってるんですか?」
このタイミングで先行して歩いていたオレリアナが異変に気づき、二人に声をかける。
「なんでもないよ、僕たちは友達なんだ。お嬢さんもよろしくね。」
「はい、よろしくお願いします!」
「もう良い、さっさといくぞ。」
そう言ってレイノワールはオレリアナの腕を引っ張りその場から立ち去る。
「お嬢さん共どもよろしくねー。」
背後から叫んでいるシュヴァルツを尻目に二人はその場を去った。
「ふぃー。やっと着きましたー。」
「よし、さっさと部屋に行くぞ。」
そう言って間髪入れずにレイノワールは部屋まで向かった。
そこに広がっているのは質素だが綺麗な部屋だった。
「お前はこの部屋な。俺は隣にいるから。」
「え、一緒じゃないんですか!?」
「は?当たり前だろ。とりあえず今日は休憩して明日に備えろ。」
オレリアナの返事を待たずレイノワールは隣の部屋に行こうとしたが、何かを思い出したかのように一度オレリアナの元へ戻ってきた。
「そういやお前、この宿は食堂付きだからこの金で夕飯は食え。」
「はーい!ってレイさんは食べないんですかー?」
「俺には必要ない。」
そう言って今度は確かに隣の部屋へと向かった。
「むー。ご飯は元気の源なのに…。あっ良いこと思いついた!ふっふー、待っててくださいね、レイさん!」
それから数時間。空もオレンジ色を帯びて来て、街中の人通りも落ち着いて来た頃―――
コンコンコンッ
レイノワールの部屋のドアからノックの音が聞こえた。
怪しく思いながらドアを開けると、そこには大量の料理を持っているオレリアナの姿があった。
「なんだそれは。」
「ジャジャーン!これは私お手製の料理です!実家では自分でずっと料理してたので得意なんですよ!」
「それは分かったがどこでこんなもの作って来た?」
「それはですねー、食堂のおばちゃんにキッチンを使う許可をいただいたんです!「命の恩人の食欲がなさそうだから手料理で励ましたい」って言ったら快く貸してくださりました。ってことでどうぞお召し上がりください!」
「はあ、俺には飯は必要ないと言ったのを理解しなかったか?」
「いいえ、ご飯は必要です!ご飯を食べればみんな元気が出ます!」
そう言って力強い眼でオレリアナはレイノワールを見つめ続ける。
やがて根負けしたレイノワールは料理を口に進める。
「…っ上手い。」
「どやぁ!そうでしょう、そうでしょう!さあドンドン食べてくださいね!」
「…ああ。」
レイノワールは無心で料理を食べ続け、オレリアナは嬉しそうにそれを見つめる。
二人の間には心地の良い空間が広がっていた、が、急にレイノワールの顔が険しいものとなる。
「おい、これピーマンが入っていないか?」
「?はい!ピーマンは健康に良くて美味しい素晴らしいお野菜ですから!」
「な、あんなものはまともな食べ物ではない。これからはぜっっっったいに入れるな!」
「えー、なんでですか、あんなに美味しいのに…。」
「分かったら今日はもう休め、まあ飯については感謝する。ピーマン以外は、だがな。」
「はーい、おやすみなさい!」
そう言ってオレリアナはレイノワールの部屋から出ていく。
怒涛の一日を振り返りため息をつきながらも、レイノワールは明日の依頼に備えて眠りについた。
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