第2話 オレリアナ
彼女の人生は総じて不遇だった。
生まれて一年も経たずして妹が生まれ、両親は妹に夢中。
物心ついた時から常に独りぼっちだった。彼女のそばにいたのは老齢の乳母ただ一人。
その乳母も彼女が九歳の時に亡くなった。
それ以降彼女は一人でも生きられるように、人知れず武力と知力を身に着けてきた。
もっとも、それに夢中になっていて自分が両親に売られたことになど気づいていなかったが。
絶望の中やってきたのは古汚い檻の中。
彼女と同様親に売られたのか現れたのか、そうやって連れてこられたのであろう少年少女がたくさんいる。
ここにいる中では彼女は最年長に近い部類だった。
彼女は決意した。自分がこの子たちを守らなければ、と。
幸い彼女は仕込みナイフを持っていた。
いざとなればこれで脱出できると考えた。
様子をうかがっていると一人ずつ子供たちが連れていかれていた。
何か騒いでいる音も聞こえたのでそちらへ耳を澄ますと、あまたの数字が飛び交っている。
そこでやっとここはオークションであると彼女は認識した。
その瞬間いてもたってもいられず彼女は動き出した。
幸い監視はオークションの方に割かれていて、警備は薄い。
油断している警備員に背後から襲い掛かりひるませた後、彼が持っていた剣を奪う。
「みんなこっちよ!早く逃げて!」
そう言って子供たちに呼びかける。子供たちはおろおろしながらも彼女の言うとおりに行動する。
殿を務め子供たちを逃がそうとするが、そう上手くいくことではない。前方からも後方からも追手が来た。
彼女は子供たちを守るように立ち追手と相対する。
まず一振り。前方を威嚇しながらフェイントをかけ後ろに切りかかる。次に下、非力なことを理解し相手の機動力を下げる。一手一手丁寧に集中して斬撃を繰り出す。
「お姉ちゃん、危ない!!」
突然背後から声をかけられた。反射的に剣を前の方に掲げる。
カキ―――ンッ!
お互いの最大出力が合わさって金属音が鳴り響いた。何とか耐えたが、力負けして押される。しかし、ここで負けてしまえば子供たちもろともひどい末路となるだろう。
せめて子供たちだけでも逃がそう。そうして最後の力を振り絞り交戦する。
もう何刻経ったか分からない。彼女はただ本能のみでそこに立っていた。
カラン。その時は突然やってきた。彼女は糸の切れた人形のように意識がなくなり倒れた。
「やっと諦めたか、このクソ女が。邪魔をすんじゃねえ。」
そう言って警備員たちは立ち去る。あとに残されたのは彼女のみであった。
「…―い。おーーい。」
気を失った彼女の横に一人の青年が立つ。
「うーん、なかなか起きねえな。そうだ。」
バシンッ。突然青年が彼女の頬をたたく。
「いったあい!何するんですか!?ってあれ、私どうなったんだっけ。ってあなたは?」
「おー。やっと起きたか。吸血種どもは俺が屠っておいた。でもてめえは勝手が違うらしい。どうやら呪いにかけられている、それも生まれつ…」
「って、そんなことより子供たちは!?無事ですか!?」
「ん、ああ。お前自分の呪いよりそっちを優先すんのか。まあいい、お前が言ってる子供たちとやらは俺が安全なとこまで送り届けた。」
「よ、よかった―。って私に!?呪いが!?掛けられてる…?っふ、ふふ、またまたーそんなわけないじゃないですかー。」
「おい、せっかくこの俺が親切にしてやってるのに。まあいいよく見とけ。【汝に潜む虚構、解明せし真実】」
青年がそういうと彼女の左手に黒紫色の紋様が浮かび上がる。
「ええ、なんですかー、これ!?」
「だから言っただろう、お前は呪われている、と。これは招魔の呪いだ。呪われているものに悪運を呼び寄せる効果を持つ。幼いころはちょっとした不運程度ですむが大人になるにつれて被害も大きくなる。最終的には死を呼び寄せるだろう。」
「そんな、迷惑すぎますよっ!どうにかできませんか!?」
「無理だ、呪いをなくすにはそれをかけた呪術師をぶちのめすしかないが、あいにく犯人は分からない。そもそもそんな面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。」
そう言って青年はその場から立ち去ろうとした、がそれを全力で引き留めようとして彼女は青年の腕にぶら下がる。
そんな攻防を繰り返したころ
「はいはい、わかったよ、手伝ってやる、ただし気が向いたらな。」
「え、本当ですか!?っていつになるんですかそれ!?怪しい…よし、私もあなたについて行ってちゃんと犯人を捜してくれるのを見張ってやります!いいですね?」
「は、なんでそんな面倒なこと…」
青年は言葉を詰まらせた。それは彼女の目が信じられないほどキラキラしていたからだ。
これを断るともっと面倒なことになると察した青年はため息をついて腹をくくった。
「しょうがねえ、ただし俺はお前の面倒は見ねえぞ。」
そう言って青年はその場から立ち去ろうとする。
「ちょ。ちょっと待ってください!私はオレリアナって言います。これからよろしくお願いします!あなたは?」
「ッチ。レイノワールだ。」
「分かりました!長いのでレイさんて呼びますね!」
「あぁ?いや、もうそれでいい。」
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