第12話 彼氏のこと見ててため息吐いたの……?

「とりあえずこっちでチーム決めたけどこれで文句はないなー?」


 先生の声が聞こえるけど、ボーっとバスケットボールを見落とす私の頭はなにも内容を受け付けようとしない。


「……はぁ……」


 不意に溢れるため息はボールをなぞり、床に落ちる。


「……美結?どしたの?」


 そんなため息を拾い上げてくれるのは彼氏でもなく、祐希でもなく、その彼女の瑞月。


「ちょっと……考え事……」


 覗かせてくる瞳に言葉を返してやれば、「なるほど」と顎に手を当て始める瑞月。


「もしかして匠海のこと?」

「まぁ……似たようなもの」

「ほ〜ん?喧嘩でもした?」

「ちがう……」

「嫌なことされた?」

「ちがう……。はぁ……」

「こりゃ重症ね」


 友達の前で吐くものではないとは分かっている。

 けれど、意思に反して溢れてしまう重い息はもう一度ボールをなぞって床に落ちた。


「……瑞月まで考えなくていいよ……。私がなだけだから……」

「そんな事できないよ!私たち友達じゃん!」

「友達……。そうだね……」


 ドッと体にのしかかるのは罪悪感。


 スッと視線を逸らした私の脳裏に過るのは、瑞月のことなんてそっちのけで求めてしまった自分。


「あっ、もしかして昨日あの後にエッチでもした?それで気まずくなったとかそういうの?」

「…………してない」

「してないかぁ」


 飛び跳ねる心を隠すようにジッと瑞月を睨みながら言葉を返す。


 さすれば「うーん……」とまるで自分のことかのように考える瑞月が視界に入り……なんともまぁ、気まずい……。


「いやもうほんと大丈夫だから気にしないで大丈夫」

「1文に『大丈夫』が2回出てくる人がほんとに大丈夫なの……?」

「あーうん。大丈夫!」


 強引に頷いた私は、チームに分かれていくクラスメイトに続くように腰を上げる。


「それに、瑞月と同じチームだから心強いしね!」

「私弱いよ……?」

「瑞月が居るだけで心の支えになるの」

「美結も祐希くんと同じこと言うんだね」

「え?そうなの?」

「うん。一言一句いっしょ」

「……祐希もキザな事言うんだね……」

「すっごいブーメラン刺さってるよ!」


「よいしょ」と声を上げた瑞月も続くように腰を上げ、私の手元からバスケットボールを抜き取った。


「とりあえず!私は美結の友達だからね!何でも相談に乗るし、言いたくなるまで待つからね!」

「瑞月もキザなセリフ言うんだ……」

「うるさーい!私だって言いたいのー!」


 ぷくーっと頬を膨らませる瑞月は小動物みたいで可愛い。


 ……きっと私の表情よりも、瑞月のコロコロと変わる表情のほうがんだろう。


 作り笑みを浮かべる私は重くなる気持ちを支えながら、チラッと奥側のコートでボールをついている祐希に目を向けた。


(はぁ……)


 口では出さないものの、心のなかで深いため息を吐き捨てた。


 思い出すのは昨夜、祐希に『可愛い』『好き』…………『だった』と言われた時。


 私たちは『元』の関係なのだから、『だった』というのにも頷ける。


(……けど、直接言ってほしくはなかった)


 祐希に未練がある女の子に、その『だった』という言葉がどれだけ辛いか。

 別れた少女に、その言葉でどれほどの苦痛を与えるか。


 どうせ祐希は私の気持ちなんて分かってくれないだろう。


 私が『一線を越えるから』という理由で言い淀んだ『好き』という言葉を簡単に使って、『好きな人以外に使うのは的外れ』と言いながらも『可愛い』なんて言葉を言って。


 どうせ私なんかに未練がないから紡げるのだろう。

 どうせ私なんて友達フレンドとしか思っていないのだろう。


「……はぁ……」

「あ、また吐いた。そろそろ始まるよ?」

「分かってる……」

「んー……もしかしてだけど、祐希くんとなにかあった?」

「祐希とはなにもない」

「じゃあ気のせいなのかな?さっきから祐希くんのこと見てた気がするけど」

「気のせい。匠海のこと見てたの」

「あー!あー……?彼氏のこと見ててため息……?」


 なんて疑問が耳に降り注ぐが、先生によって吹かれた笛によってあっという間にかき消された。

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