第35話

やることは無限にあった。


でも時間は有限で、誰にでも平等だから、わたしが周りに追いつくのは簡単なことじゃない。


幸い体調は良かった。


自分では頑張ってたつもりだったのに、最後の模試でもE判定でしかなく、父の条件をクリアできる望みはなかった。


使っていた問題集が終わりまできて、何の気無しに「あとがき」に書かれていたことに目を向けた。



「人間、やる気を出せば1ヶ月で偏差値なんて簡単にあげられます。それを無理だと思ってあきらめるのか、そうか!と思い頑張れるかが別れ道です」



きっとこれまでのわたしなら、こんな根性論みたいなこと笑い飛ばしてた。


でも、今は、信じたい。


わたしは、頑張れるよね?


ずっと遼からの連絡はないままだったけれど、そんなものなくたって頑張れる。


頑張るしかない。





冬休みが始まると同時に、3年生は自由登校になる。

そこまでは学校に行かなくてはいけない。



HRが終わり、席を立ったところで、心春が近づいて来た。



「ねぇ、菜々子ちょっと太ったんじゃない?」


「バレた? 夜中に勉強してるとつい甘いもの欲しくなって」


「やっばー」


「だよねー。受験終わったらダイエットする」


「いきなり国立目指すとか言い出した時はびっくりしたけど、応援してるよ」


「ありがとう」


「もう帰る?」


「英語をみてもらってから帰る」


「ん。じゃあ先帰るね」



心春と別れて、英語の先生のところへ行く。



こんなに先生達と話すようになるとは思わなかった。


特に英語の桶井先生は結構な年で、黒板に書かれた文字も読み取れないくらい汚いから、授業ではノートに書き写すのもいつからかやめてしまったくらいだった。


でも、真面目に勉強に取り組むようになって、質問に行ったらとっても丁寧に教えてくれて、今ではほぼ毎日先生のところへ通っている。



「……悪くないかな。変に難しい文法使ってミスるより、簡単な文章でいいからミスらないようにね」


「はい」


「他の科目の成績見たよ。理科も社会も酷いね」


「……はい」


「あきらめるしかないかな」


「嫌です!」


「違う違う、そうじゃない。言い方悪かったね。もう本番まで時間がないから、やることを絞ろう。森川さん、国語は平均よりいいから、そこは現状維持。数学は2次対策も兼ねて勉強するとして、英語をもっとやろう。暗記してる単語量が少なすぎる。ここを頑張って、長文対策しよう。問題文を早く読めればその分考える時間ができるから」



「藁にでもすがる思い」って、きっとこういうやつだ。

でも、可能性があるなら何だってする。



「東奈大学の看護科は、足切りがない上に1次と同じくらい2次も配点が高いから、2次で高得点取れれば可能性があるからね。最後までやりきろう」



桶井先生に勧められて、今まで怖いと思っていた竹中先生に数学を聞きに行くようになった。

驚くことに、竹中先生の教え方は自分に合っていたみたいで、土壇場で数学が伸びた。


それに、桶井先生と同様、親身になって教えてくれた。

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