第17話

早く帰るために、早く待ち合わせをしている。

遼さんは、いつもわたしに合わせてくれる。



「早く来たおかげで駐車場に並ばなくて済んだ」



そう言って遼さんは笑った。


朝が早いことをわたしが気にしてることを知ってて、そういう言い方をしてくれる。



「遼さんって、今まで何人の人と付き合った?」


「それ聞く?」


「正直に教えて」


「……2人」


「間があったのはどうして?」


「なんか食い下がるね」


「教えて」


「明確に『付き合おう』って付き合ったのが2人で、なんとなくそれっぽかったのが……2人」



4人……25歳でそのくらいの数が多いのか少ないのかわからない。



「自分から言ったのは、菜々子ちゃんが初めて」



と言うことは、全部向こうから言ってきたんだ……

それはそれで……

自分で聞いておきながらもやもやとしてしまう。



少し歩くと、真っ赤な鳥居が見えた。



「下鴨神社?」

「最強の縁結びの神様らしい。この時期だけ、みたらい祭というのもやってるらしいから、そっちも行こう」



神社の入り口の、その鳥居をくぐった先には、ずっと先まで森の中にいるような道が続いている。



「涼しい」


「さっきまでの暑さが嘘みたいだ」



両方を木で挟まれた道を2人で歩きながら、昔のことなんて今言ってもしようがないよね、って自分に言い聞かせた。

今、隣を歩いているのはわたしだよね?



森を抜けると、「みたらい祭」と大きな白い看板があり、境内は一歩通行になるようにロープが張られていたので、それにそって、御手洗池へ向かった。

本殿でお参りをして、献灯料を納めてロウソクを受け取ると、御手洗池に入る。



「冷たい」



思わず遼さんの顔を見た。

それに気づいて笑いかけてくれる。



「湧き水だからかな。菜々子ちゃんスカート大丈夫?」


「大丈夫」



行く前に、「膝まで水に浸かると思うから」と聞いていたので、短めのスカートで来ていた。

海にでも行くのだと思っていたので、行先が神社だと言われて、どこで水に浸かるのかと不思議だったのだけど、こういうことだったんだ。


みたらい祭りは夏の短い間だけ行われていて、御手洗池に素足で入り、ロウソクをお供えして、無病息災を祈るお祭りだと教えてもらった。


ご神前にロウソクをお供えして、向きを変えたちょうどその時、余所見をしていた人がぶつかってきてよろけた。

それを咄嗟に遼さんが支えてくれた。



「大丈夫?」


「大丈夫」


「階段のところまでだけだから」



手をつないでくれた。


足元はとても冷たくて、繋いだ手は熱い。



でも、池から出て階段をのぼると、言葉の通り、簡単に手は離されてしまった。


つないだままで……良かったのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る