第14話 あの日の観覧車

「心ここにあらず」ってこういうことを言うんだよね?



その日は待ち合わせの時から、小島さんはなんだか落ち着かない感じだった。

「最近仕事が忙しい」という話を聞いたばかりだったから、毎週末わたしと会ってるせいで、きっと疲れが取れていないんだと思った。

何か目的があるわけでもなく、一緒にお昼を食べて、その辺をぶらぶらしてるだけなんだから、早く帰って休んだ方がいい。



「さっき、全然違う花を指差して『ひまわりきれいだね』って言ったのに、『そうだね』って答えたね」


「あ……」


「お仕事で疲れてる?」


「そんなことないよ」


「もう帰ろう?」


「……駅ビルの観覧車乗ったことある?」


「ない」


「乗りに行かない?」


「でも……」



いいのかな?

疲れてるんじゃないのかな?



「行きたくない?」


「……行きたい」


「じゃあ、決まり」



駅ビルの上に観覧車があるのは知っていたけれど、出来たのはわたしが中学の頃で、もう家族で乗るような年でもなかったし、友達と「乗ろう」なんて話にもならなかったから乗ったことがなかった。




駅ビルに直結する駅まで地下鉄にで行って、観覧車のある屋上まではエレベーターに乗った。


小島さんは、やっぱりどこかそわそわしていたけれど、でも目が合うと、嬉しそうに笑ってくれるところはいつもと変わらない。


エレベーターを降りて、屋上に出ると、ついさっきまで晴れていたのに、空を雲が覆っていた。



「雨が降りそうだね?」


「ああ……うん……乗るのやめようか」


「どうして?」


「曇ってて、景色もよく見えないだろうし」


「『乗ろう』って誘ったのは小島さんの方だよ?」


「うん……そうなんだけど……」


「乗ったことないから、乗ってみたかったんだけど……」



小島さんの顔を見ると、何だか困ったような表情に見えた。


わがまま……だったのかな……



「やっぱり、いいや。ごめんね。帰ろう」


「いや、乗ろう!」


「いいの?」


「乗ろう」


「うん?」



わたしは天気がどうとか景色がどうとかはどうでも良くて、ただ乗るのを楽しみしにしていた。

でも、観覧車を前にして、ちょっと躊躇する小島さんの態度に、きれいな景色じゃないと嫌だったのかなって、少し悲しくなった。



わたしはまだ自分が高校生だってことも言えてない。

でも……言わなくてもいいんじゃないかって考えたりしていた。

言っても言わなくても、今の関係はきっと変わらないから。

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