時の旅人〜とある女の物語との出会い

まよみ遊

時の旅人 


旅人は、とある海辺でひと息ついていた。


海がきれいだ。

遠くまで続いている海岸線を見やる。

空と海とが混じり合う場所。

はじまりの場所。


遠く遠くへと思いを馳せる。


(今日はどんな物語に出会えるのかな)


そんなことを思う。



旅人は、様々な場所を巡り巡っていた。

一カ所に長くはとどまらず、どこかへと向かい旅をしていた。


目指している場所が何処なのかは、本人にもまだ分からない。

分からないが故に、それを探すために、見つけるために、旅を続けていた。


旅人がこの地球へとやってきた目的、意味、還るべき場所を見つけるための旅。

旅人が誰だったのか、何者だったのかを、思い出すための旅。


旅人は、自分のことを忘れていた。

自分が誰だったのか、何のためにこの地球へとやってきたのかが分からない。思い出せない。


この地球へとやってきた時は覚えていたはずだった。何かの目的があって、ここへとやってきたはずだった。

けれどこの地上へと一歩を踏み出した時、それをすべて忘れてしまった。

まるで、忘れることが何かのルールであるかのように。


そうして、まるでパズルのピースのように、バラバラになって、あちらこちらへと散らばった自分へと続いている欠片たちを、そのひとつひとつを、探し求めていた。


その時その時の思いを頼りに、気の向くまま、時には導かれるようにしながら、時には思いをもって、その旅を続けていた。 


そんな旅の途中。 


海の見える場所で、遠くへと繋がる海岸線を見つめ、はるか彼方の世界へと思いを馳せる。


行きつ戻りつする波、やってきては泡のようになって去っていく、波の終わりとはじまりを見つめ、時を過ごす。


海岸線には日が沈もうしていた。


そんな時間。

向こうから何か黒いものがやってくるのが見えた。


何だろうと見つめていると、それは亀のようだった。


(かめ?)


はっきりと亀をみようと目を凝らして見つめる。亀はゆっくりとこちらへと近づいてくる。

そうして、亀を見つめていると、なんとなく視界がぼんやりとしてきた。


さっきまではっきりと亀を見つめていたはずの意識は、次第におぼろげになっていった。

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