第5話 ヤマダの頼み

*******


「いいか、“若頭”は若くない」

「ほーう、今日はそうきましたか」


「職名に“若”がついているから、若いってわけさじゃないんだ。

 その業界の役職ではNo.3、殆どはじいさんだ。企業の専務と同じようなものだ」

「ハイハイ、検温終わってたら早く体温計出して下さいねー」


「む、分かった」


 あれからひと月。

 仕事にも随分慣れた私は、ヤマダの扱いも上手くなった。


 ヤマダの記憶は相変わらず飛んだままだが、私がブック◯フで(自腹で)買ってきてやった大量のラノベをずっと読んでいて、少し機嫌がいい。


「なあ、あんた」

「あのね、私、“あんた”じゃないのよ。松井さんとか、優しいナースの松井さんとか、可愛くて優しい、いい感じのナースの松井さんとか、そんな呼び方で呼んでくれる?」


「む、分かった。じゃあ、松井氏!」


オタクか!

……まあいい。


「な、何でしょう」

 それでも改めて呼ばれると、妙に緊張してしまって、私は思わず背筋を伸ばした。


「実は明日、俺の顔の包帯がとれる」

「えー、良かったじゃない!

 私、明日休みだからいないけど」


「そうか...…

 その、自分がどんな顔かを見たら、何か思い出せるんじゃないかと思ってな。

 それで……もし松井氏が良かったら」


 え、何?もしかして愛の告白?!

 いや絶対に無いけれども!



(またこっそり屋上に、一緒に行ってくれないか? 勿論、夜勤の時、少しの間でかまわない。

 あの時一番、何かこう

 キタ━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━!!!!!

という気がしたんだ)


 そっちかい!


「ま、いいけどね」


 どことなくホッとしたような、でも何かつまらないような気分を抱いて、私は203号室を後にした。

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