第5話 ヤマダの頼み
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「いいか、“若頭”は若くない」
「ほーう、今日はそうきましたか」
「職名に“若”がついているから、若いってわけさじゃないんだ。
その業界の役職ではNo.3、殆どはじいさんだ。企業の専務と同じようなものだ」
「ハイハイ、検温終わってたら早く体温計出して下さいねー」
「む、分かった」
あれからひと月。
仕事にも随分慣れた私は、ヤマダの扱いも上手くなった。
ヤマダの記憶は相変わらず飛んだままだが、私がブック◯フで(自腹で)買ってきてやった大量のラノベをずっと読んでいて、少し機嫌がいい。
「なあ、あんた」
「あのね、私、“あんた”じゃないのよ。松井さんとか、優しいナースの松井さんとか、可愛くて優しい、いい感じのナースの松井さんとか、そんな呼び方で呼んでくれる?」
「む、分かった。じゃあ、松井氏!」
オタクか!
……まあいい。
「な、何でしょう」
それでも改めて呼ばれると、妙に緊張してしまって、私は思わず背筋を伸ばした。
「実は明日、俺の顔の包帯がとれる」
「えー、良かったじゃない!
私、明日休みだからいないけど」
「そうか...…
その、自分がどんな顔かを見たら、何か思い出せるんじゃないかと思ってな。
それで……もし松井氏が良かったら」
え、何?もしかして愛の告白?!
いや絶対に無いけれども!
(またこっそり屋上に、一緒に行ってくれないか? 勿論、夜勤の時、少しの間でかまわない。
あの時一番、何かこう
キタ━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━!!!!!
という気がしたんだ)
そっちかい!
「ま、いいけどね」
どことなくホッとしたような、でも何かつまらないような気分を抱いて、私は203号室を後にした。
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