6話 不完全な怪物に与えられた役目
ミラアルクはまだ夜が明けていない空を進也の後を追う形で飛行していた。まだ夜明けの4時だ。前世の悪夢で目が覚めたとは言え、ミラアルクは朝が苦手だ。口に手を当て欠伸をすると、ミラアルクは前を飛ぶ進也に不満の声を上げた。
「なぁ、何でこんな朝早くに出る必要があるんだ? 本当にヴァネッサとエルザには会えるのか?」
ミラアルクが問うと、進也はこちらを振り向かずに答える。
「あぁ、会える。まあ詳しい事は後で着いたら説明するから、とりあえず着いてこい」
「はいはい」
ミラアルクは自分と全く同じ羽で飛ぶ前の少年を見て気怠げに返す。何とも奇妙な感じだった。やり直す機会を与えられたこの世界で初めて出会ったこの朝日進也という少年。
自分と同じ尖った爪と、耳、羽、八重歯を持っている。自身がなぜそうなったかは、教えてくれなかったが、ヴァネッサとエルザに会わせてくれると言うのだ。今は言う事を聞いておいても損はないだろう。
ボーッとした頭の中でそんな事を考えている内に目的地に着いたらしい。
「ここだ」
進也が飛行を辞め、地上に降り立つ。そこは周りが緑に囲まれた山だった。地面に降り立つと既に何人かもう到着していた様だ。人間とは程遠い姿にされた者達は皆瞳に生気がなかった。
「おい、ここは何だゼ。それにアイツら」
ミラアルクは、今自分の目の前に広がっている異様な光景が信じられず、息を呑む。すると進也は、ミラアルクから見て右の方を指差す。
そこには、洞窟があった。
「あそこで俺たちは、毎日朝5時から夜9時まで日本の鉱山資源である金を発掘をさせられている。金は奴のエネルギー源なんだ。それを発掘するのが、俺ら不完全な怪物の役目だ」
進也の口から淡々と語られる自分のこの世界での立ち位置。昨日寝る前に言っていた"仕事''と言うのは、この事だったのだ。ミラアルクは目だけは洞窟の方を見つめたまま、口元だけで笑ってみせる。
「ハ、ハハハ!! 冗談じゃないゼ。自分達からヒトの姿を奪った奴の為に、一生奴隷としてこき使われるって言うのか」
アグリーに従う事、それ即ち、ミラアルクにとっては、前世で自分達をこの様な姿にした、錬金術師に従う事に変わりなかった。
せっかくやり直すチャンスを与えて貰ったこの世界でも、所詮''不完全な怪物''は''不完全な怪物''のままだと言うのか。そんなのは御免だった。
今度こそ、ヴァネッサとエルザと一緒に人の身体に戻るんだ。ヒトとして、三人で笑えるように。
そう、その為に三人共に弱い力を合わせて、戦ってきたのだから。
「悪いがウチは、ヴァネッサとエルザと再会出来さえすれば、こんな所に用はないゼ」
「やめた方がいい。食料が貰えなくなるぞ」
「食料?」
「お前も怪物なら必要だろ、血」
ミラアルクはすっかり忘れていた。転生したと言っても、肉体は前世と変わらないのだ。つまり、稀血無しでは生きていけない身体だと言うことを。
「あっ」
「やっぱりか。いいか? ここに連れてきたついでに教えてやる。俺たちは金を発掘させられてる代わりに、一応生命維持の為の稀血を貰うことが出来る」
「だが」と進也は、声のトーンを少し低くして続けた。
「それはアイツが俺たちを一生''不完全な怪物として''死ぬまで飼いならす為に過ぎない。要は、俺たちはあの野郎にとって、飼い殺しの家畜同然。これが今の俺たちの現状だ」
進也はミラアルクから視線を外す事なく、今の''この世界''でも、自分たちは所詮誰かに生かされてる存在だと言う事を、教えてくれた。
ミラアルクは自身の運の無さに、殆憤りを感じる。
「チッ...全く反吐が出るゼ。転生した先でもこれかよ!」
だが、何も知らないこの世界で、稀血を手に入れる為には最早それしかない。生きなければ、夢も叶えられないのだから。
ミラアルクは情けない感情でいっぱいになり、舌打ちをするのだった。
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