第8話: 突きつけられる選択

董卓が酒を断つ決意を固めたことで、屋敷の雰囲気には変化が生じ始めた。彼が以前のような気まぐれな振る舞いを控え、政務に向き合う姿は、家臣たちの間で賛否を生んだ。貂蝉はそんな彼を陰ながら支え続けたが、反発する声も徐々に高まっていた。


そのような中、貂蝉のもとにある噂が届いた。董卓を排除しようとする陰謀が動き始めたというのだ。これを聞いた貂蝉は、ただならぬ危機感を覚えた。


夜遅く、董卓と向き合った貂蝉は意を決して切り出した。「董卓様、私はあなたを守りたい。けれど、今のあなたの変化を快く思わない者たちが動き始めています」


董卓は深くため息をつき、目を閉じた。「貂蝉、お前がそう言うのであれば、きっとそれは事実なのだろうな。しかし、どうすればいい?私はもう、以前のような恐怖による支配には戻りたくない」


貂蝉は彼の手をそっと握りしめた。「恐怖ではなく信頼で周囲を包むことができれば、きっと道は開けるはずです。でも…」


言葉を詰まらせる貂蝉に、董卓が尋ねる。「でも、何だ?」


「周囲があなたを裏切ろうとする動きを止めるには、彼らに選択肢を与える必要があります。あなたが彼らに信頼される存在であることを示すのか、それとも…離れるか」


その言葉に、董卓は険しい顔をした。「私が全てを手に入れるために戦ってきたのに、それを捨てろと?」


貂蝉は悲しげに目を伏せた。「それが難しいことだとわかっています。でも、あなたの変わる意思を邪魔する者たちに屈することなく、道を選んでほしいのです」


この言葉を受け、董卓はしばらくの間何も答えなかった。彼の目には深い葛藤が浮かんでいた。


翌朝、董卓は家臣たちを集め、かつてないほど冷静な口調で語り始めた。「私はもう以前の私ではない。酒も力も手放すと決めた。しかし、それが気に入らない者がいるのなら、ここから去るがいい」


その場に沈黙が走った。多くの者は戸惑い、しかし少数の者が静かに席を立った。董卓はその背中を見送ると、貂蝉の方を振り向き、わずかに微笑んだ。「お前の言葉に賭けてみるさ」


だが、この選択が新たな波乱を呼ぶことを、貂蝉も董卓もまだ知らなかった。

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