第3話

 翌日の放課後、一人で下駄箱に向かっていたら、向こうから藤枝さんが友達と話しながら歩いてきた。


「藤枝さん」


 俺は思わず声をかけた。


 藤枝さんは俺に気付くと、優しく微笑んで俺の前まで足を速める。


「柿原君、ちょうどよかった。柿原君って、甘いもの平気?」


 単刀直入すぎて、俺は戸惑いながら答える。


「平気だけど……」

「よかった。今日クッキーを作ってきたんだけど」


 藤枝さんは手提げバッグの中を探り、丁寧に包装されたクッキーを取り出した。


「一つ余っちゃって。よかったら、どうぞ」

「え、いいの?」

「カナ、余ってたなら言ってよ。私がもらったのに」


 受け取ろうとすると、隣の女子に邪魔をされた。


「美波ちゃんにはあげたでしょ。これは綾乃ちゃんの分」


 その子が不満そうにしているのに、藤枝さんは構わず俺にクッキーを渡してきた。


「本当に俺がもらってもいいの?」


 受け取りながら確認する。


 藤枝さんの手作りクッキーなんて、めちゃくちゃほしいけど、二人の会話を聞いておきながら、もらうのは気が引ける。


「美波ちゃんのことは気にしないで。それに、綾乃ちゃん……これを渡すはずだった子は、今日休んでて。むしろ、余りものでごめんね」


 藤枝さんは申し訳なさそうに言う。


「全然、嬉しいよ。ありがとう」


 俺がそう言うと、藤枝さんは照れ笑いを見せた。


 女子からプレゼントをもらったことは、今までに何度もある。

 だが、それとは比べ物にならないくらい、ものすごく嬉しかった。


 藤枝さんと別れても、顔のにやけが収まらない。帰り道、すれ違う人が奇妙なものを見るような目を向けて来たが、俺はまったく気にならなかった。


 家に着くと、まっすぐ自室に向かった。椅子に座って、藤枝さんにもらったクッキーを見つめる。


 渡すはずだった相手が女子だったから、これだけラッピングが可愛いんだろう。

 本当に余りものだったのだと思い知らされる。


 しかしそれでもいいと言ったのは俺だ。傷つくのは筋違いというやつだ。


 クッキーを一つ取り出し、頬張る。


「うま……」


 それは想像していた以上においしかった。

 もったいないと思いながらも、藤枝さんの手作りクッキーは、夕飯に呼ばれるまでの数十分でなくなってしまった。

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