嘘恋愛者

碓氷澪夜

第1話

 目の前の女子は、少し俯いて、手を震わせながら言う。


「私……柿原かきはらのことが、好き……」


 何度目か知らない、女子からの告白。


 俺は口元がにやけてしまいそうになるのを必死に堪える。


「ごめん、俺、君のことそういうふうに見たことなくて……」


 慣れたように口から出てくる嘘。


 彼女は泣きそうな、だけどどこか緊張から解放されたような顔で笑う。


「うん、知ってた。じゃあね」


 彼女は走って俺から離れていく。彼女と入れ違うように、陰に隠れていた悪友の蒼生あおいが姿を見せる。


「今回は一週間かあ」


 蒼生は彼女が走って行ったほうを見て笑うと、肩を組んできた。


「どんどん早くなってくね。やっぱり慣れた?」


 まるでアニメに出てくる悪者のような、悪い笑顔を浮かべている。


「さあね。出すもの出してもらおうか」


 しかし俺も似たような、勝ち誇った顔をする。


 蒼生はつまらなそうに財布を取り出す。いや、不満そうだ。


「もう絶対に告白まではいくよね。そろそろ賭けにならなくなってきたと思わない?」


 それは俺も思っていたことだった。こうも簡単に告白されてしまうと、遊びにならない。



 これは、俺たちの最低で最悪な遊びだ。


 女子に近付き、優しくして、告白させる。


 俺たちは、女子が告白してくるまでの期間を賭けて遊んでいるのだ。



 俺は受け取った札を自分の財布にしまいながら、どうすればもっと楽しくなるのかを考える。


「そうだ。嘘で付き合ってみるってのは?」

夏輝なつき、本当最低だね」


 そう言うわりには、蒼生は笑っている。


「でもいいの? 興味ない奴と適当に付き合うことにならない?」

「そこなんだよなあ……」


 相手に迷いながら教室に戻っていたら、一人の女子生徒とすれ違った。


 可愛い。


 直感でそう思った。


「……ターゲット、発見」


 そして俺は、その子の肩を叩いた。

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