法的反省と心理的反省(1)
名誉毀損、侮辱の罪で有罪判決を受けた魚政書士の男は語る。
「法的に付け込むところや、不備があったという意味で、反省はしていますね。」
他方で、心理的には、どうしても全く「反省」することはできないのだという。
「私は、そもそも、発達障害(ASD、自閉スペクトラム障害)と精神障害(うつ病)があるのですが、もしかすると人格障害もあるのかもしれません。身柄拘束から免れたり、弁護人や検察官、捜査官に迎合したりして『反省している』と言ったことや謝罪文を書いたことはありますが、長い時間をかけて自由な環境で考えると、やはり、心理的に『反省する』ということはできないと自覚しました。そもそも、私の心に、そのような機能が備わっていないのだと思います。」
と述べ、男は、”部落リスト”の出版をめぐる部落解放同盟との交渉で、「『全国部落調査』の出版は差別ではなく、差別を助長するとも考えていない。そもそも解放同盟は一政治団体に過ぎず、当事者ではない。そのような約束はできないし、仮にここで約束しても、必ず破る」
と話したという”鳥取ループ”こと宮部龍彦氏を引き合いに出した。
「『そのような約束はできないし、仮にここで約束しても、必ず破る』という宮部氏の発言の意味が、非常によく分かるんです。部落解放同盟のボスが目の前に来ているという状況で、ついイエスと言ってしまうことはあり得るじゃないですか。
それは、捜査官や検察官を前にした被告人の場合でも同じだと思います。しかし、冷静になって考えてみると、ある種の同情心や誠意のつもりで迎合してみただけであって、本質的な考え方や感じ方が変わったわけでもないし、変わる理由もない。そこで、後から事件を蒸し返すことになり、結局は迷惑がかかる。
そうであれば、そういった自分の心理を最初から見抜き、『約束はできないし、約束しても必ず破る』と述べる方が誠実です。」
なぜ、心理的には”反省”できないのか。
「既に述べた通り、もともとそういう機能が備わっていないというのもありますが、それ以上に、その時点としては、常に正しいと判断して行動をしているからですね。それが、偶然、後から警察に逮捕されたからといって、やっぱり間違っていました、『反省』しています、というのは、一般論としてもおかしいじゃないですか。
間違いだと最初から分かっているなら行動に移さないはずだし、後から間違いだったと本当に自分から思ったのであれば、警察が来る前に自首すべきですよね。
逮捕されて、刑務所行きになりかねない状況になったから、突然『反省』するというのは、反省するという心的機能が備わっているひとにとってすら、本当の『反省』ではないと私は思います。」
"魚政書士”はまくし立てる。
「そもそも、刑事裁判の仕組み自体が不公平で、最初から壊れているんです。
まず、警察が、粗略な理由で逮捕状を請求できる仕組みがおかしい。任意の取り調べに応じないと逮捕されるとよく言いますが、裁判所のホームページにアップロードされている春日井警察署の逮捕状請求書の実例によれば、任意の取り調べに応じたところで、それにより犯人性は確実になったうえ、罪の重さや世間体の悪さから逃亡を図るおそれがあるとして逮捕になるそうです。つまり、どっちみち逮捕なんです。
起訴取り消しで事実上、冤罪であることが確定した有名な大川原化工機事件でも、被疑者の会社役員たちは、半年ぐらい在宅の捜査が続いたはずが、ある日突然逮捕されています。
逮捕されてしまうと、当然、釈放されたいと思いますから、釈放されなくなるような否認供述はやめようという話になってしまい、真実が歪められてしまう。実際に、警察も、否認すれば再逮捕するぞというようなことを暗に示し、プレッシャーをかけてきます。
というか、否認すれば再逮捕されることや、保釈が通らなくなることは刑事事件の現実を知っている人にとっては常識ですから、つまるところ、逮捕状が出た時点でジ・エンドなんですよね。」
起訴後の刑事事件の手続にも問題があるという。
「私の場合、国選弁護人が就きましたが、比較的軽微な事件だから保釈請求は通るだろう、速やかに申し立てようという話になったはずが、その後、後で聞けば『体調が悪かった』ということで、丸1ヶ月以上、接見に来ることも保釈を申し立てることもありませんでしたね。
ようやく接見に来たのは、私がしびれを切らし、房内から手書きで保釈請求書を裁判所に提出した後でした。留置場の担当官は、『行政書士だからそんなこともできるのかあ!』と言っていましたが、冗談じゃないですよ。裁判所提出書類は司法書士の業務です。
保釈請求は通ったものの、検事から準抗告がかかり、合議体で再審査されることになったところで、ようやく国選が会いに来たのです。これも、保釈請求書とほぼ同時に提出した弁護士会への『紛議調停申立書』がきっかけだったとのことです。
『館長から電話があった』とイヤそうに話していました。館長というのは、弁護士会の事務局長みたいな人の愛称だそうです。本当、こちらはそれどころじゃないんですけどね。」
結局、検察側の準抗告は棄却され、手書きの「保釈請求書」の活躍で最終的に保釈が許可されのだという。
「その後、公判になったのですが、起訴された問題を争う材料の法律書のコピーを図書館で取り、国選に送ったところ、当日になって、『争うのであれば公判は長引く。保釈中の制限住居から、毎月、裁判所に来てもらうことになる。』と言い始めて、ビックリしましたね。裁判員裁判みたいに集中審理してもらえないのか。
制限住居から裁判所までの交通費だけでも往復4万円以上しましたので、とてもじゃないがたまったものではないと思いましたね。」
しかも、初公判で、国選弁護人は検察官請求証拠を全て同意し、”魚政書士”のために仲間が作ってくれた嘆願書などの証拠を一切請求しなかった。
「後で日弁連の資料を読んで知ったのですが、証拠請求についても、同意・不同意の選択権は被告人にあるわけですから、私が証拠カード(検察官提出証拠の目録)すら見ていないのに、全て同意というのはおかしいわけです。検察から開示された段階でコピーを送り、検討する時間をくれるべきだった。刑訴法の勉強をまったくしていなかったのが悔やまれます。
嘆願書についても、提出してくれと言ったのに、『弁護側からは本人尋問のみ請求します。』と述べてしまい、あっというまのことで、止めることもできなかった。
挙げ句の果てには、論告求刑を受けた弁論で『懲役刑は認めるが執行猶予を付することを求める』と言ってしまった。いや、そこは罰金刑で留めるよう求めてほしいですよ。
民事訴訟で対立していた相手方などが嫌がらせで傍聴に来ていたので、あまり自由な言動ができなかった。これについても、後で調べたところ、刑訴規則に利害関係のある傍聴人を退廷させることができる根拠となる規定があったようです。
まさに、『法の不知はこれを許さず』。刑訴法を知らなくて本当に損をしました。」
結局、十分な反論も嘆願書の提出もできないまま、有罪判決を受けてしまった。
「争っていないから判断しなくてよかったということなのでしょうが、判決文を読んでも、結局、何が問題だったのか良く分からない非常に短い判決になっているんです。
例えば、弁護士への懲戒請求を提出する、それについて署名を集めるという趣旨の記載をしたことが名誉毀損であるとされていますが、懲戒請求は、弁護士法により何人にも与えられている国民の権利ですよね。それを行使したことが明らかにされただけで、社会的評価が低下するというのはおかしいはずです。
また、同じ弁護士の行為が違法行為や犯罪行為にあたるというのは、法的見解の表明ですから、平成15年の最高裁判例によれば、事実の摘示にあたらないはずです。こうした反論も、勾留中は資料が文献が手に入らず、また、1回当たり4万円以上をかけて制限住居と裁判所を往復することも経済的に不可能だったので、叶いませんでした。
そして、虚偽の内容の文章で刑事事件の犯人に仕立て上げられたというのは、令和5年4月10日に元勤務先が求めている引き継ぎは全て完了していると元勤務先の弁護士が言ってきたので、それではと退職日とされた日の翌日の26日に貸していたソフトウェアを削除したところ、やっぱりそのソフトウェアをまだ使っていた、削除したのは業務妨害だとして元勤務先が訴えてきたため、「4月10日に元勤務先が求めている引き継ぎは全て完了している」という弁護士の文書がウソだったのが問題で、それを信じて、もう引き継ぐものはないのかとソフトウェアを削除したにもかかわらず、実はそれがウソで実際にはソフトウェアは使用中で引き継ぎは必要とされており、そのまま業務妨害の犯人にされたことがおかしいという意味なのです。
このことを「虚偽の内容の文章を送りつけた」と批判したのは、元は業務妨害の事件の時の弁護人の先生で、まさに検察庁に送ってくれた意見書にそう書いてくれていたはずです。私はそれに倣ったまでです。
確かに、今読み返せば全体として若干感情的な文章だったとは思いますが、問題はそれだけで、内容としてはウソのことや不当なことは全く言っていません。そして、感情的であれば名誉毀損罪で、冷静であれば無罪という法律にはなっていないはずです。」
(続)
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