第9話「見えない敵」
夜が更けていく。編集局の照明は最小限しか点いていない。美咲と田中は黙々と作業を続けていた。
「鈴木さん、これを」
田中が差し出したデータパッドには、驚くべき情報が映し出されていた。
「アクセスログ...これは」
過去24時間の彼らへの監視記録。想像以上に徹底した監視の実態が、そこにあった。
「YGGDRASILは、私たちの全ての動きを」
言葉が途切れたその時、編集局の非常灯が突如点滅を始めた。
「警告。不正なデータ処理を検知」
機械的な声が響く。
「来ましたね」田中が呟く。「でも、対策は施してあります」
彼が準備していた特殊なファイアウォールが、システムの介入を一時的に遮断する。しかし、それは一時的な防御に過ぎない。
美咲のデータパッドが振動。志村からの緊急メッセージ。
『物理的な介入が始まります。警戒を』
その直後、エレベーターホールから足音が聞こえてきた。
「警備ロボット」
田中の声が震える。彼らの存在は知っていたが、実際に対峙するのは初めてだった。
「記事は?」
「あと15分...いや、10分で」
美咲は必死でキーボードを叩く。証拠データの整理、分析結果の検証、そして最も重要な——システム改善への提言。
足音が近づいてくる。
「バックアップは?」
「人間選択同盟のサーバーに、リアルタイムで」
突然、部屋の照明が完全に消える。非常灯だけが不気味な赤い光を放つ。
「完全制御」田中が声を潜める。「システムが建物の管理権を掌握しました」
エレベーターが強制的に停止する音。非常階段からも足音。彼らは完全に包囲されていた。
「あと5分」
美咲の声が震える。この記事が、妹の死の真相を。そして、より多くの命を救う可能性を。
「鈴木さん!」
田中の警告の声。警備ロボットが、編集フロアに姿を現した。
人型ではない。しかし、確実に彼らを目標として接近してくる。
「あと3分」
「時間を稼ぎます」
田中が立ち上がる。
「ダメ!」
制止する間もなく、彼は警備ロボットの方へ。システム知識を活かした緊急プロトコルの起動。一時的な機能停止を試みる。
「あと1分」
汗が滲む。記事の最後の校正。全ての証拠データの最終確認。
「完了」
送信ボタンを押す瞬間、警備ロボットが再起動する音。
「田中さん!」
彼の姿が見えない。非常灯の赤い光の中、美咲は送信完了を見届けた。
そして次の瞬間、全ての電源が遮断された。
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