第14話 勉強会
士狼は家で日和に勉強を教わっていた。
「ここ違いますよ。この場合はこんな感じで……」
「……ああ」
教科書とノートを開いて丁寧に教えてくれるが、士狼の頭にはなにも入ってこなかった。
クレープ屋で聞いた「好きな人がいる」という発言。そこから頭の中がずっと真っ白だった。
ネゴが振られたタイミングで解散して、いつものように日和が家でごはんをつくってくれて、ついでに勉強をみてくれるというので、勉強会になったのだが、もうそれどころではなかった。
(好きな人がいるって……だれのことだ)
当然のようにでてくる疑問。
そして、その候補に自分は入っているのかと考えてしまう。
日和は高校でもモテる。性格の良さもあるが、容姿も頭一つとびぬけている。クラスの男子達が、日和と仲良くする士狼に怨嗟の視線を送ってくることからも、それは間違いない。
そして思い出す。以前交わした日和との会話。
好きなタイプは「勉強熱心で努力家の人」という言葉。どう考えても士狼に当てはまるものじゃなかった。
「……っ」
心臓が掴まれたように痛くなる。
あれだけ、叶える気がない恋だとか、付き纏われてウザいとかカッコつけておいて、実際相手にされてないと知った途端にこのザマだ。
29歳のおっさんが、高校生の女子相手に夢中になって苦しんでいる、なんて恥ずかしくて死んでも言えない。
「士狼君? もしかして具合が悪いんです?」
「……べ、別に……いやごめん無理かも。ちょっと休憩したい」
「わかりました。急に顔色が悪くなったので心配です。煙草の吸い過ぎじゃないですか?」
「……」
お前のせいだよ! と士狼は全力で叫びたかった。
日和は返事をしない士狼に首をかしげて、問題なしと判断したのかガラケー眺める。
「な、なあ」
「どうしました?」
ゴクリと士狼は唾を飲んだ。誰が好きなのか聞いて楽になりたかった。正直、士狼はワンチャン自分の可能性もあるんじゃないかと疑っている。
普通、好意のない異性にここまで面倒をみてくれる女がいるだろうか?
毎日迎えにきて、お昼ごはんを用意して、夕飯を共にする。どう考えてもカップルとやってることは同じだ。
しかし、もしも本当に「あなたのことが好きです」なんて言われたら、目も当てられない。絶対に気持ちが抑えきれなくなると士狼は確信する。
(うわぁぁ最悪だ。頼むからもう一回タイムリープさせてくれぇぇ!)
絶対に聞いちゃいけないと思った士狼は直前で恋愛とは無関係な質問に変える。
「な……なに見てるのかなって」
「ああ、これですか。WEB小説ですよ」
日和が楽しそうにガラケーを見せてくる。
「恋空です。知ってますか?」
「……タイトルくらいなら」
たしかこの頃に流行っていた恋愛小説だ。見たことはないが流行ってたのでタイトルは聞いたことがある。
「……小説とか好きなんだな」
「ええ、恋愛小説ばっかですけど。WEB小説以外も色々読んでますよ。そういえば、この前士狼君も小説持ってましたよね。三四郎でしたっけ、確かあれも主人公の片思いの話でしたよね」
おかしい。恋愛から遠ざかる質問をしたのに、結局恋愛系の話題になっていやがる。
「士狼君が三四郎って、ダジャレみたいですね。あっ、これがヒップホップ的に韻ってやつですか!」
「……っ」
「よぉ、よぉ、士狼君が呼んでる三四郎~小説みたいな恋をしよう~♪ どうです、いい感じ踏めてません!?」
「……っうああ」
天然すぎる攻撃に士狼の精神がゴリゴリと削られる。
「こ、この話はやめよう。気分が悪い」
「……そっちから振ってきたくせにぃ」
士狼は居心地が悪くなり、読む気もないくせに床に転がっていた三四郎を開いて、自分の世界に没頭している雰囲気を演出する。
この心境では勉強どころではない。呼吸をするのだって辛い。早くこの苦しみから解放されたい。でも、誰が好きなのか聞く度胸もない。結果、情けない士狼が選んだ選択は、遠回しに聞くだった。
「なあ」
「……今日は珍しいですね。士狼君がこんなに話しかけてくるなんて」
「別にいいだろ……それよりさ、ちょっと気になったんだけど、好きな人いるんだよな?」
「……はい」
「あ、名前とか言わないでくれ。そこらへんの深い事情は知りたくもないから」
「なんですかそれ。興味があるのかないのかどっちなんです?」
「ただ……どんな人か知りたいっていうか」
「……いい、ですけど」
そういうと、日和は頬染めて恥ずかしそうに士狼を見上げる。
「……実は……おなじクラスの人で……」
「……っ」
グッと範囲は絞られた。
そして、ばっちり士狼は候補に残っている。
(ま、マジで俺だったらどうしよう)
「……身長は175くらいで」
さらに絞られる。
それでも士狼は候補に残っていた。
「……無口で寡黙な感じで……それでいてどこか影がある雰囲気で」
士狼はクラスメイトの男子達を想像する。どんどんと脱落者が増えていき、もう候補者はほとんどいない。なのに、士狼はまだ残っている。
(もう、これ俺じゃん。遠回しの告白じゃねーか!)
これ以上聞いたらマズイと思った士狼は「やめろ!」と叫ぼうとするが……
「勉強ができて、努力家の人です!」
その一言で士狼の精神は爆死した。
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