第13話 同級生と仲間達。

 鏡に映る自分の姿は様変わりしていた。

金髪だった髪は真っ黒に染まり。なぜか前髪が無くなっていた。失った前髪の帳尻合わせで全体を短くして、また失敗して、結果的にベリーショートに。


 兎々が文房具ハサミをチョキチョキと鳴らす。


「……はじめてにしては上手くいった方ね」


 『はじめてにしては』という部分を排除したら、評価は180度変わるんじゃないだろうか。


 長身の健吾と、デブのネゴが悔しそうに舌打ちする。


「だりい、なんでクソダセー髪型でも似合ってんだよ。イケメンとか死ねよ。まあ、俺がその髪型だったらブチギレてるけど」

「たしかにゴミみてねえな髪型だな。けど顔が良いせいでイマイチ笑いに欠ける。むかつくから散髪料払え」


 士狼は帰りに美容室に行くと決めた。




 クレープ屋の裏手で大雅がCDを渡してくる。

この場には士狼と大雅の二人きりだった。日和達は仲良くクレープを食べて盛り上がっている。仲違いするつもりで来たのに、どうして毎回こうなるのか。


「CD貰ってくれよ。デモテープが完成したんだ」

「そうか、あとで聞くよ」

「クソカッコいいから、感想メールでおくれよな」

「ああ」


 放置されている瓶ビールの黄色いケースを椅子代わりにして大雅が煙草を吸う。士狼もつられて煙草に火をつけた。特に会話をすることもなく、無言で煙を吹かす。


 仲間達なら、日和の意見を否定してくれると思っていた。前の人生では確かに大雅達は士狼の退学を心から歓迎してくれたのだ。


 でも、実際はそうじゃなかった。こいつらは、たとえどんな選択をしたとしても、士狼を応援するというスタンスをとっていただけであった。

 

 結果的に仲間達まで日和の味方にまわった。ヤバイ女に順調に退路を塞がれていってる。


「あの日和ってやつ、いい子じゃん」

「……どこが。ただのお節介な女だ」

「ただのお節介であそこまで出来るなら、それはすげーことだよ。お前だってさ、嫌いじゃないんだろ? なんか、中学卒業してからずっと尖った感じだったけど、久しぶりに会ったら、すげえ棘がとれてるっというか。全部あの子の影響だろ?」

「……ちげーよ」


 もし大雅がそう感じるなら、原因はタイムリープしているからだと士狼は考える。中学卒業したタイミングで父親に家の金を持ち逃げされた当時は、かなり精神的に荒れていた気がする。高校に通っていた記憶が極端に少ないのも、周囲のことを気に掛けるほどの余裕が無かったんだと、今になって振り返ると思う。


 だから、絶対に日和のおかげだなんて……あり得ない筈だ。

 

「お前があの子をどう思ってるか知らないけどさ、ぼうっとしてると他のやつにとられちまうぜ。特にあんな可愛い子は」

「そうなってくれたら最高だよ。もう構われないで済むしな」


 どうせ叶える気もない恋だ。いっそのこと、そうなってくれたほうが諦めもつく。


「日和のことはもういだろ。それよりいいのかよ。俺、お前等の活動を手伝うって約束してたよな。高校なんかに行ってたら、難しくなるぞ?」

「ああ、それか……別にいいよ」

「冷めてー奴だな。俺はやる気だったのに」


 文句をつけると、大雅は「はっはっは」と笑う。


「仲間外れにしてるつもりはねえよ。ただ応援してるだけだ。さっき渡したデモテープはさ、仲間をテーマにした曲なんだよ。全員で成り上がっていこうぜって感じの」


 知っている。このCDは、大雅達が初めて本格的に作った曲だ。29歳になるまで、大切に部屋で保管して何度も聞いた。


「いいじゃん高校生、カッコいいよ。普通の15歳なら当たり前のことかもしれねーけど、俺らには出来なかったことだ。挑戦してみろよ、頼りになる子も近くにいるんだしさ」

「……勉強するのもヒップホップってか?」


 いつしか日和に言われた言葉をつぶやく。その言葉が気に入ったのか、大雅は大笑いする。


「なんだそれ、くそイケてるパンチラインだな」


 親友の笑顔を見ながら、士狼はもう自分がどの道を進めばいいのか分からなくなってきた。


 最初は、真面目に生きたい。母親に楽をさせたい。ただそれだけだった。母親や仲間も高校をやめて働くことに賛成してくれると思っていたのに、いつの間にか高校卒業を応援してくれている。


 どうしてこうなってしまったのか。その問題の中心にいるのは、間違いなく日和の存在だ。彼女が見捨ててくれないから、しつこく付き纏ってくるから……そして、そんな女をどうしようもなく好きになってしまったから、こんなことになっている。


(俺はこの気持ちを……どうすればいい?)


 なんのしがらみもなければ、日和と付き合いたい。それが本音だ。

だが、士狼の実年齢29歳。歳の差なんて気にするなというのは詭弁だ。そう言えるくらいに、士狼の人生は呪われていた。15歳で大人の半グレに妊娠させられた母親。そして……あの事件。


 大人が高校生を口説くなんてフェアーじゃない。だから、日和と付き合うなんてできないんだ……。向こうが大人になるまで待つことも考えたが、自分の感情を抑えれる保証はどこにもない。


 考えすぎて頭がパンクしそうになった煙草の煙を空にむかって吐く。そんな士狼の背中を大雅が叩く。


「まあ、俺らはお前がどんな道を選ぼうと応援するぜ」

「ああ」


 

 クレープ屋のアジトに戻ると、ネゴが日和に頭を下げていた。


「ひ、ひよりちゃん! お、おれと付き合ってください!」


(初対面でなにしてんだこいつ?)


 明らかに日和が怯えている。可哀想だからネゴを引きはがそうとするが、日和の予想外すぎる言葉で停止する。


「ご、ごめんなさぁい! わたし好きな人がいるんで!」



……は?

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