11_1学期、終業式。そして夏休み
期末テストが終わって。その結果が僕らそれぞれに返ってきたところで。
1学期の終業式が間近に近づいてきていた。
「さて、今日は勉強会じゃないけどさ」
どうやら『少年少女心理研究同好会』の活動を、学校の方からこの図書室で行うことを許されているらしい光海さんは。
僕と水樹が揃ったところで、どう見ても有名ブランドの刻印にしか見えない模様の入ったセカンドバックをごそごそやって、その中から。
『ふじ寅屋』という、僕らの県内発祥で、地方全体でチェーン店展開している中堅どころの和菓子メーカーの羊羹と落雁を取り出した。あ、食べたことあるけど、美味しいけど。アレは主に贈答用で確かとんでもなく高かったような記憶がある。僕はそう思った。
光海さんは。何の気ない感じにそれを図書室の大机の上に置いて、図書準備室というか、図書室に隣接した給湯室に向かって。
しばらくしたら、急須と保温ポットを持って戻ってきたのだった。
「蔵山さんは、学年4位。頑張ったわね、流石」
陶器の急須の茶漉しに緑茶の葉を入れ、蓋をして。お茶を蒸らしに入る光海さんは、まずは何というか。
学生が100人ちょっといるうちの学校の1年生の中で、4位という総合成績をテストで挙げた水樹を褒めた。
「うん、ありがとうございます。意外とアレですね、この図書室での勉強会の効果が出たのかもしれないです」
大人しく、光海さんに頭を下げる水樹。この子も随分と丸くなったもんだなぁとか、最初の頃の接触の事を思い出してそう思う僕だった。
「んで……、まあ。大金星よね、正時は。特進クラスでもないのに、学年18位。アンタやるじゃん、ちょっと認めちゃう」
そうそう。僕は光海さんと水樹に、苦手教科の勉強法を叩き込まれた結果。中間テストでは30位だった学年順位が18位まで上がった。
それを光海さんは褒めてくれたんだ。
「それで、浅見先輩は。2年生で何位だったんですか?」
ちょっとダイレクトでそれを先輩に聞くのはどうなのって僕は思ったけど。
水樹は何の躊躇もなくそう聞いていた。
「ん? 2位」
「え?」
「はぁ⁈ どういうことです⁉」
「だから2位。なんかおかしい? 私のクラス、2年のA組だし。2年生だけど、私も蔵山さんと同じ特進クラスだから。別におかしくないじゃん」
そんな感じにさらっというと。湯呑みに急須でお茶を淹れ始める光海さん。
いや、この人。頭いいのは普段の言動見てればわかるけれど。
数値化すると、そんなんなるのかと。
ちょっと驚いた僕である。
「さて、お茶も入ったし。羊羹はカットしてあるのを買ってきたから。ちょっと食べて飲んで、この図書室の冷え冷えの空調の中でお話ししますか。議題は、決まってるけどね」
なんだろうか? そう言う光海さんは。
なんかすごい楽しそうだった。
* * *
「ええー……、うほん!」
さて、今日は終業式。僕がこの桜園学園に入学して、初めての終業式だ。
「これにて、わが校の1学期課程の終業となる。が、生徒諸君には、これより一か月と半月の長期休暇。夏季休暇の間に、それぞれに時間の使い方を判断し、行動の決定をする自主性を育んでもらいたいと思う」
校長の
* * *
「正時~。家の電話に連絡が来たんだけど?」
「あっ……ふぁぁう……。なに? 誰?」
僕は頭を振って、眠気を散らす。
「あなたが、携帯に電話しても全然出ないからって。家電に掛けさせて頂きました。そう礼儀正しく挨拶出来る子だったわよ?」
「ああ、そっか」
「誰なのよ? 女の子の声だったけれど。この前に正治が言っていたし、あなたからも聞いた、あなたの彼女さん?」
「ん~? ちょっと待って」
そう言って僕は、自分のスマホを見る。
すると、着信アリの通知が確かに来ている。
通話アプリを開いて、通知を見てみると。
水樹じゃなくて、光海さんからの連絡だった。
「家電、まだ繋がってるの? 母さん」
「いえ、私が折り返し掛けさせますって云ったら、向こうさんはお礼を言って切ったわよ。早めに電話しなさいよ?」
そういって、母さんは僕の部屋から出て行った。
光海さんから連絡か……。なんだろう。あのイベントまではまだ間があるし。
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