6_誘惑? 告白? それともトラップ?
「笹倉君。私は1-Aクラスだから。今は逃がしてあげるけど、お昼休みに一緒に屋上でお弁当食べましょう」
しばらく、教室前の廊下で。僕が制服のブレザーの下に着ている、白地に青マーブル模様のパーカーの襟を掴んでがっくんがっくんやってた蔵山さんが。
ようやく手を放してくれたけど、やっぱり逆らい難い怖い視線を射込んできてそう言うのだった。
「……僕に気があるの?」
僕はそう聞くしかなかった。先日、告白した僕を振ったというのに。なんだろう、この蔵山さんの態度は。何を考えているのか、サッパリとわからない。
「……思いあがらないで」
そんな言葉をぶつけてくる割には。なんか目を伏せる蔵山さん。相も変わらず意味不明行動を取り続ける女の子だなぁ……。
「じゃ、笹倉君。約束破ったら。私の親衛隊に連れてこさせるわよ? 大人しく屋上で待っててね」
ケチのつけようのない笑顔に切り替えて、僕に手を振って1-Aの教室に入っていく蔵山さんだった。
「意味わかんないよ……」
その後ろ姿を見つめながら、僕はなんかわかんないけどドッと疲れて、ため息を吐いた。それから、自分達の1-Bの教室に入ったんだ。
* * *
「ほい、笹倉。この問題わかるか?」
2限目になって。数学教師の
自分のノートを見て、その解き方を思い出し。席を立ってホワイトボードにペンで解を書き込んだ。
「ほお。早いな。お前予習して来ただろ? 笹倉」
「いつもそうやってますから」
「ふむふむ、感心だ」
どうやら、解は合っていたらしい。僕らの1-Bクラスは、1-Aのような特進クラスではないために。受験用ガリガリのフルチューンをされたような授業内容とは少し違って、基本を叩き込まれるために。かえって授業が面白い。
「すっご。頭いいのは知ってるけど。あんなのなんで簡単に解けるの?」
自分の席に戻ると、隣の席の
「兄貴にさ。いい勉強法を教えて貰って。それやってるだけだよ」
僕は福原さんにそう言った。
「私さー。この高校には推薦で入ってきたんだけど。まあ、入れたのって。親がけっこうお金使ってくれたからなんだよね。制服も可愛いし、市内県内での格付けが高めのこの学校入って。美味しい思いは結構できてるけど、悲しい事に。私自身のスペック、そんなに高くなくてさー……」
福原さんは自嘲気味にそう笑う。
「うーん……。これ読む?」
僕は、そういって。自分の数学のノートを福原さんに渡した。
「え? いいの? マジでいいの⁈」
目をらんらんと輝かせて。福原さんは嬉しそうに僕のノートを受けとった。
「次の数学の授業までに返してくれればいいから。持って帰って、読みなよ」
そういって僕は自分の教科書を睨み直した。
* * *
「来たのね。それでいいの」
昼休み。今日はお弁当を作る時間を削って、早めに家を出て光海さんと喫茶店のモーニングを楽しんだので。当然のように僕はお弁当を持ってきていない。
購買で買った牛乳パックと、カレーパンと焼きそばパンのお昼を屋上で食べていた僕の前に。
美麗な姿と魅惑的なオーラを放つ、件のお嬢様。
蔵山水樹が姿を現した。
「……」
「……ねえ」
黙り込む僕に、蔵山は声をかけてくる。
「なに」
「なに? じゃないでしょ? なんではしゃがないの?」
「……」
「黙り込まないでよ。私を好きだってあなたが言ったんでしょ?」
「でも振ったじゃんか……」
ブツブツ言いながら、パック牛乳をストローで飲む僕の頭に。
蔵山のチョップが落ちてきた。すとん、って。
「あのさ? 私はスクールカーストが高いの」
「それで?」
「立場上、取らなければならない態度ってモノがあるの」
「へー? それで?」
「つまり、あなたよりスクールカーストが上位の私は、下位のあなたがそれなりの事をしないと。付き合うわけには行かないの」
「要するに、周りの目が気になるって?」
僕がぶーたれてると、蔵山はきつめの視線を射込んでくる。
「そういうことね。私は貴方を振ったけど、笹倉君? 悪いのは私じゃない。この学校で、大きな力を持たないあなたが悪いのよ。組織を外れれば、私にとっては貴方は好みのタイプなの。だから、告白されて嬉しかったのよ」
「……あっそ」
実は僕は、さっきから蔵山が盛んに口にしている『スクールカーストシステム』があんまり好きではない。だから、それにガッツリ囚われている蔵山の事も。
あまり好きでなくなってきた。
「でも、ね……」
ん? なんか。
蔵山がどんどん距離を詰めてくる。心理的距離じゃなくて、物理的距離を。
「笹倉君が、今日の朝。あの可愛いメガネの先輩と一緒に親しげにしているのを見てさ」
あれ? おい待て、蔵山? お前何しようとしてるんだ?
「私、気が付いちゃって」
顔が近い近い!! こら近づきすぎっ!! って。
言っている間に、僕の唇に。
柔らかくて暖かくて、つるっとした肉厚の。
蔵山の唇が押しあてられた……っ⁉
「私は、あなたが好きなんだなって。まだお互いの事、知らないけど」
ぎゅっと抱き着いてきて。
「もっと知りましょ、お互いの事。『貴方を好き』の入り口に立ったわ、私」
そんな事を言う、蔵山水樹だったのだ……。
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