第3話 赤ずきん①

『いい? 絶対にみちくさしないこと』 

 


 ここは……?


 目を開けると、見慣れない天井が視界に入った。

 あれ、私……、どうして……。


「ねぇ」

 ふいに声が聞こえた。

 驚いて声の方に顔を向けると、見知らぬ二人の少女がじっとこちらを見つめていた。

「ひぃ……!」

 飛び起きて後ずさると、ベッドの横にあった壁に頭がぶつかった。

「何!? だ、誰なの!? っていうか、ここどこ!?」


 フランス人形のように無機質な少女たちは、ベッドの横にあった椅子に腰掛け、無表情でこちらを見ていた。


 何!? ここ、どこよ!

 慌ててあたりを見回したが、古い洋館のような内装にはまったく見覚えがなかった。


「ねぇ、あなたたちは……」

 声を出すとひとりの少女が遮るように口を開いた。

「赤ずきんちゃんは、オオカミが危険だってどうしてわからなかったのかしら?」

「え? 赤ずきん……ちゃん?」

 唐突な質問に、頭が回らない。

 よく見れば少女の手には赤ずきんちゃんの絵本があった。


「わからない? そうだったかしら?」

 もうひとりの少女が首を傾げる。

「いえ、のよね?」

「え……?」

「わかっていて、誘い出した」


 誘い出した? 私が……?


 胸がざわざわして、何かが奥から込み上げてきそうだった。


「あら、素敵なマフラー。真っ赤なマフラー、よく似合うわ」

 絵本を持った少女がこちらに手を伸ばした。


 赤い……マフラー?

 あの……


 視線を下げると、首には真っ赤なマフラーがあった。

 あの日捨てたはずの……。

「いやぁ!!」

 思わず伸ばされた少女の手を払いのけ、首のマフラーに手をかける。

 取りたいのに、マフラーはなぜか私の首を締め上げた。

「いやッいやぁ!! なんで!?」

 あの日の記憶が、頭の中に蘇る。


 その瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

 歪んでいく景色の中で、二人の少女が笑った気がした。


「さぁ、聞かせて。あなたの罪、あなただけの物語を……」

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