眠れぬ夜の寓話たち

はるこむぎ

第1話 オオカミと七ひきの子ヤギ①


『誰が来ても絶対にドアを開けてはダメよ』



 あれ、ここは……?

 目を開けると、知らない天井が見えた。

 体を起こしてみても、やっぱりこの場所に見覚えがない。

 ここはどこ?


 部屋は絵本でしか見たことがない高そうなものでいっぱいだった。

 でも、なんか薄暗くてちょっと不気味だな……。


 そのとき、扉が開く音がして、思わず飛び上がった。


「あら、もう起きたのね」

「そうかしら? ええ、そのようね」

 声のした方を見ると、二人の女の子が立っていた。


 うわぁ、可愛い!

 そこには金色のツインテールの髪に青い目の美少女がいた。

 双子なのか、二人の顔はそっくりでどちらも驚くほど表情がなかった。

 服は全身黒のフリフリドレス。年は僕と同じで10歳くらいかな……?


「私たち、眠れないの」

「え? な、何? 何の話?」

 突然言われ、思わず目をぱちぱちさせてしまった。


「眠れない? そうだったかしら? いえ、そうね」

 もうひとりの女の子が小さく頷く。


 二人は一度顔を見合わせると、一歩ずつ僕に近づいてきた。

「え!? というか、ここは一体……」

 僕がキョロキョロしているあいだに二人は僕の目の前に立った。


「ねぇ、『オオカミと七ひきの子ヤギ』って知ってる?」

 女の子が唐突に言った。

「目の前でオオカミに食べられていく兄弟たちを見ながら、末っ子ヤギはどんな気持ちだったのかしら」

 二人の女の子が僕の顔を覗き込む。

 青い瞳の奥は暗くて、ほんの少し怖くなった。


「食べられていく? そうだったかしら? いえ、のよね」

「え……?」


 僕が、逃がした……?


「あら、素敵な腕時計。古いけれど、今も動いているのね」

「時計……?」

 僕の右手首にはいつものように腕時計があった。

 カチカチカチカチ……。

 そう、秒針もちゃんと動いて……。

 思わず目を見開いた。


 顔から血の気が引いていく。

 違う、腕時計は……壊れたはずなんだ……。


 カチカチカチカチ……。

 耳障りな音があの日の記憶を連れてくる。


 大きくなる胸の音、ひそめた息、秒針の音、近づいてくる足音……。


『あれぇ? どこに隠れたのかなぁ?』


「ああぁぁああああああ……!」

 僕の口から何かが溢れ出した。


 視界の端で、二人の女の子が嬉しそうに笑ったのだけがわかった。

「さぁ、聞かせて。あなたの罪、あなただけの物語を……」

 女の子は僕の耳元で同時にそう囁いた。

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