30話:アリシアの再建の旅
広大な空と大地が広がる帝国。その中心にそびえ立つ白亜の宮殿は、かつてアリシアが囚われの身となり、命を狙われた場所だった。しかし今、その宮殿は新しい息吹を得ていた。
宮殿の庭園では、侍女たちが慌ただしく動き回り、修復作業が進められている。傷ついた石像は再びその荘厳さを取り戻し、壊れた噴水からは清らかな水が勢いよく湧き出ている。その中に立つ一人の女性――アリシア・フォン・ヴェルディアは、毅然とした表情で目の前の光景を見つめていた。
「この国をもう一度、平和な場所にする。それが、私がここに戻ってきた理由……」
アリシアの口から零れた言葉は、自分自身に言い聞かせるような響きを持っていた。
王宮の会議室。アリシアは帝国の重臣たちを前に、堂々と演説をしていた。
「皆、よく聞いてください。帝国はこれまで、力による支配に依存してきました。しかし、それでは私たち自身が滅びる運命を変えることはできない。」
彼女の声は響き渡り、一言一言がしっかりと聞く者たちの胸に届く。
「新しい帝国を築きます。民と共に歩み、共に繁栄する未来を。そして、そのために必要なのは――」
一瞬、彼女は言葉を切った。その場に緊張が走る。
「私たち自身が変わる覚悟です。」
重臣たちの中には戸惑いを見せる者もいれば、感銘を受けたようにうなずく者もいた。それでもアリシアは揺るがなかった。彼女の瞳には、未来への確固たる決意が宿っていた。
その夜、アリシアは宮殿のバルコニーから星空を見上げていた。冷たい風が彼女の金髪を揺らし、ドレスの裾がふわりと舞う。目を閉じると、東京で過ごした日々が鮮明に蘇る。
「隆司……」
その名前を呟くと、胸の奥がぎゅっと締め付けられるようだった。共に笑い、喧嘩し、そして支え合った日々。彼の言葉が、今でも彼女の心を支えている。
「また会えるわ。必ず……」
その言葉は、彼女自身への誓いだった。
数日後、帝国の南部の村にアリシアは訪れていた。戦争の影響で荒れ果てたその村には、瓦礫が散乱し、人々の顔には不安の色が濃く浮かんでいた。
「アリシア様……!」
一人の老女が涙を流しながら彼女に近づいてきた。「本当に戻ってきてくださったのですね!」
「ええ、私はこの国を変えるために戻りました。」
アリシアはその老女の手をしっかりと握りしめた。「あなたたちが安心して暮らせる国を作る。それが、私の使命です。」
その場に集まった人々が、次々とアリシアに感謝と期待の言葉を伝える。彼女はその一つ一つに耳を傾けながら、胸の中で誓いを新たにしていた。
帝国の復興は決して簡単なものではなかった。残党勢力の反乱や貴族たちの権力争い、さらには外部の侵略の脅威もあった。それでも、アリシアは決して諦めなかった。
彼女の周りには、忠実な仲間たちがいた。現代の知識を活かして農業改革を提案する青年や、かつての敵対者だったが、今は心から彼女を支える騎士たち。
「一歩ずつでいい。焦らずに進もう。」
隆司の言葉を思い出しながら、彼女は困難を一つずつ乗り越えていった。
宮殿の大広間では、アリシアの即位式が行われていた。純白のドレスに身を包んだ彼女は、玉座に静かに座り、国民の前で新たな宣言をした。
「この帝国を、希望と絆の象徴とすることを誓います。過去の過ちを乗り越え、未来へと進む力を――」
彼女の言葉に、広間は拍手と歓声で包まれた。
その光景を見つめながら、アリシアは心の中で呟いた。
「隆司、あなたが教えてくれたことを、私は決して忘れない。この世界とあなたの世界、どちらも私の大切な居場所だから。」
そして彼女は、新しい未来への一歩を踏み出した。
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