済まない。少し道を教えてほしいのだが……。-前

「くっ、これも通じない。」

「ふむ、どうやら魔法がつかえないようだね。」

「何を呑気に言ってるんですかー!」


 聖女からのお使いで銀の錫杖を取りに来たフィリア一行、しかし銀の錫杖、その目前で藍色オルカに阻まれていた。オルカはフィリアとカラーの二人を相手にして余裕を崩さずに相手取り、更にエイドの魔法を封じて、銀の錫杖に近づくことさえままならなかった。


「ここから引いてくれないかな? そうすれば戦うこともないんだけど。」

「そうしたいのは山々何だけどねぇ! 嬢ちゃんの願いもあるから引けないねぇ!」


 オルカの銃撃に合わせてカラーは巧みに剣で銃弾を逸らす。しかし、 剣士二人が果敢に攻めるも彼女には塵一つ着けることはできない。


 どうしてオルカが銀の錫杖の前に立ちはだかったのか。それは数時間前に遡る。




 ――――――




 銀の錫杖から一番近い街でのことだった。


「やっとここまで来たな。いや〜長かった。」

「まだ安心するには気が早い。」


 フィリアがカラーの頭を軽く叩くと、パシッという小気味いい音が鳴る。ここは街の酒場である。最も酒が飲めるのはカラーだけなのだが、今は誰も飲んでいない。そんな彼らは今後の予定について話していた。


 しばらくはこの街で準備を整えて、銀の錫杖があるとされている神殿に少しずつ近づいていくという予定らしい。ここまでに1年近くかけて来ただけあって、慣れた様子で予定を決めている。


「じゃあ明日から頑張っていこうか。とりあえず宿に戻って休息を取ろう。」


 そう締めくくり、食器の片付けを始める。まあ、大した量は食べておらず片付け自体はすぐに終わるのだが。


「……?」

「ん? どうしましたかエイドさん。そんな怪訝そうな顔をして。」


 酒場を出る直前だ、最後尾にいたエイドがふっと後ろを向いたのにジュートが気がついたのだ。それも何か真剣な顔をして。


「いや……なんでもない。気の所為だったみたいだ。」


 はてなを浮かべるジュートをよそに、早くいかないと置いていかれるぞとエイドが急かす。そのまま、残っていた二人も出ていってしまった。


 ……感が良い事を喜ぶべきか、それともまだ気づくかなかったことを悲しむべきかわからない。しかしつまるところ、酒場の奥でが微笑んでいたことに彼らは気づかなかったのだ。



 数日後、場面は変わって出立の直前であった。いつも通りの装備を整え、銀の錫杖が待つ神殿へと向かうところだ。フィリアの腰に携えられた剣は今も鋭い光を放って、周囲を照らしている。


「……神殿まではそんなにかからないけど、ついてからが本番かな。ジュートは神殿の中までは知らないみたいだし。」

「うぅ、ごめんなさい。フェイ様も私に教えてくれなかったんです。」


 ジュートが申し訳無さそうな顔をして謝る。フェイのお使いは一つの試練とも言える。ここからは自力で探せということだろう。


「大丈夫。そう簡単にお使いフェイのお願いが済むとは思っていない。」

「そうそう、そんな何回も謝らなくて大丈夫だよ。案外すんなり見つかるかもしれないしね!」


 カラーは振り返って言う。カラカラと笑いながら後ろ歩きをして、フィリアにちゃんと前を向けと注意をされている。どちらが歳上なのかわからなくなってくる。

 そんな光景にジュートは思わずフフッと笑ってしまうのだった。


 そうして周囲を警戒しながらとりとめもないことを話しながら進む一行、さほどもせずに見えてきたのは例の神殿。ツタに覆われ、半ば崩れている柱があるものの森の中にどっしりと腰を下ろし、その威厳は未だ健在であった。それに圧倒されることなく一行は進む。


 神殿の入り口で全員の足が止まる。またも神秘的と言える光景が広がっていた。墜ちた天井の隙間から陽光が差し込み、緑に侵されつつある石造りの宮を温かな光で包んでいる。


「はわぁ……。」


 ジュートが感動の声を漏らしている。やはり聖職にとっては何か感じ入るものがあったのだろうか、いや単に子どもっぽいだけのようにも感じる。



 そんな、目を奪われてしまった一瞬は致命的な隙となってしまった。


「やあ、初めまして。気分はどう?」


 瞬間、剣士組二人、フィリアとカラーは剣を構え険しい顔で声の主を睨む。ここまで近くにいたのに気づかなかったのだから警戒するのは当然かもしれない。しかし一瞬の隙を生んでしまった自分を悔んでいるようにも思える。


 相も変わらずジュートは「え、え?」とか困惑していたが、エイドはゆっくりと柱の上から語りかけられた相手を観察をしていた。それはそれは珍しいだろう、何せ……


「……《深海The Deepest》か。」


 この世界に古きから生きる《外れたもの》の一人なのだから。


 それ藍色は一つ、頷くとにこやかに語りかける、あまり表情には出ていなかったが。


「そう、私は《深海The Deepest》。名前はオルカだよ! 短い付き合いかもしれないけどよろしく!」


 機工の天使が笑った。

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