……。

「……」


 世界の頂は満天の星空に包まれていた。時折流れ星が瞬き、幾千の星が出現と消失を繰り返す。綺麗な光景には目もくれず、山頂の少ない足場から下界地上を見下す存在がいた。


「……あまり、上手くいっていませんね。計画の変更が必要です。」


 そう一人で呟くと、冷淡な瞳を東の方を向ける。数キロ先には海が広がっていた。


「海は彼女の領域、しかも今は勇者が向かっている。見届けるのならばこちらでしょうか。」


 右手を地にかざすとスルスルと地が盛り上がり水鏡を成す。すると、そこには二人の剣士とが戦っている姿が写されていた。後方にはローブを着た男と小さいシスターが見える。


 そのは口を開くことなく、ジッとそれを見つめている。そして何か人影が見える……その瞬間だった。


「……っ!」


 バチッという弾ける音ともに水鏡は爆ぜた。真っ二つに割れ、もはやガラクタである。


 かざしていた右手は焼け爛れており、彼、あるいは彼女はそれを静かに、どこか呆然と見つめている。先ほどまで見せていた機械的な表情とは違い、人間を感じさせる表情である。


「……error」


 小さく呟くと共に激しく右手をふるわすと、そのまま膝から崩れ落ちる。ドサリと倒れ込んだまま地に向かって呟き続ける。


「errorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerror……」


 どれほど続けたのか、朝日が見える。雲一つないあけぼのに陽光が差し込む。荘厳で壮麗な、神々しささえ感じる景色にそぐわない壊れたレコードは未だに呟いていた。……先ほどまで。再起動を果たしたようだ。


「……天上の意志を再実行。1.試験チャンバーの保全、2.外子の試験、3.…………errorの修正。」


 そう言い終えると、再度監視を始める。東の空を仰ぎ見て、睨むと言っていいほどの視線を向けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る