貴方様が救われますように -後
アカの武勇伝を語っていた時、ふと口を止める。突然、フェイは質問を投げかけた。
「貴方達は私の力についてどのくらい知っていますか?」
「? 癒やしの力だと聞いている。それこそ死者蘇生に届くのではないかとか言われてる。そうでしょ?」
フィリアはハテナを浮かべながら、問いかけの眼差しをエイドの方を向ける。
「……僕も大体同じ。」
そういえばこの少年は今まで一言も喋っていなかった、と少々の驚きを隠しつつ、フェイは話し始め。
「概ね合っているのですが、少し足りません。私、《
聖女は粛々と続ける。
「何事にも終わりはあるものです。それでも、終わりを認められず再開を望むものは多くいるでしょう。そんな者たちに少しの”続き”を与える、私はそういう役目についているのです。」
フィリアは突然語りだした聖女に困惑を、エイドは先が読めたようで若干の恐れを抱く。
「先の大戦では終わりを望むものも多く”続き”を強制させてしまいました。何度も何度も、死を許さず、戦いへと行かせる。私にあだ名をつけるとしたら『地獄の門番』でしょうか? ……冗談ですよ。」
「……全く、冗談じゃない。」
耐えきれなかったのか、エイドは思わず口に出してしまったようだ。
「兵士たちも、それこそアカも望んだことなのだろうけど、そんな力を使ったのか。」
「ええ、こんな力でも望まれましたから。」
フィリアは未だハテナを浮かべている。エイドが哀れなものを見る目で聖女を見ると、聖女は未だ微笑んでいた。
「話の続きをしましょう。先の大戦では何度もこの力を使いました。彼らは戦い、傷つき、それでもなお戦おうとしましたから。その結果は戦場となった貴女の故郷は壊滅。私の周りにいた人以外のものは、人一人残さず灰燼に帰しました。」
何度も聞いたような話ではある。それでもフィリアは顔を歪めてしまう。聖女は静かに目を閉じる。
「原因の一つは、まあ二つしかありませんが、私です。奇跡の前借りの代償で味方の殆どが半死半生になりました。言い方が悪いですけれど、もともと引き分けのようなもので、あまり生き残っている人はいませんでしたが。」
「もう一つの原因は?」
知らなくていい事を、知るべきでない事を、告げる必要がある。願わくば、聞こえなければ良い。そう思ったのだろうか。それはポツリと、呟くようだった。
「……もう一つの、最大の原因は貴女の父です。」
「え?」
フィリアに最大の疑問と、驚きが現れる。エイドは黙したまま、話を促す。
「貴女の父は所謂、英雄と呼ばれるような人物でした。自らの剣と力を持って、敵を
唾を飲み込む音がする。
「彼の力の詳細は誰も知りません。ですが一つだけわかることがあります。私の力との相性が最悪と言っていいほど悪かったんです。」
フェイは懐かしむように語っていく。戦場だけでの付き合いだったが、今でも彼女の多くを占めているのだろう。
「彼は死に対して厳しかったですから、生と死を気軽に繰り返させる私は少々嫌われていたんですよ。」
ふふ、とフェイは微笑む。少年少女は数少ない
「『俺が誰も死なせはしない。その力を使わずに帰ってくれ。』だとか言われて、その頃は私も聖女になって日が浅くムキになって、意地でも戦場から離れてやるもんか、なんて息巻いてましたよ。それで――……すいません。話がそれてしまいましたね。」
少し恥ずかしそうにした後、真剣な、しかし微笑みを
「たとえ英雄でも、あの大戦では命が軽い。彼も私の力で何回も生死を行き来しました。戦局が落ち着いてきた時、戦場の一角がにわかに騒がしくなったのに気づいたんです。今考えると耐えきれなくなったんでしょう。いくら国のためとは言えども、相性の悪い力を受け続ける、常に爆弾を抱えているようなものです。」
夕日が三人の横顔を照らし、呻くようで小さな言葉がフィリアの口から漏れる。
「それで……どうなったの?」
「死んだ、と聞いています。それも特異な形で。実際に私は見ていないので又聞きになりますが、観測手――戦争の状況を観測する役割の人――が言うには急に周りの人間を一瞬で細切れにしたかと思うとそのまま動かなくなった、だそうです。」
再度場に沈黙が訪れる。フェイは微笑み続けており、フィリアは下を向き動かない。エイドは様子を伺っているようだ。日が沈んだのか、辺りが暗くなっていく。
ポツリ、呟いた。
「あそこには、今入れない。」
「ええそうですね。」
「どうしたら入れる?」
「私の許可が取れればいいですよ。現在あそこを封鎖しているのは私ですから。」
「入らせて。」
「無理です。」
素早い応酬が交わされる。エイドは黙したままだ。
「そうですね……。では一つ、お使いをお願いします。それを達成できたら、許可を出しましょう。」
「わかった。何をすれば良い?」
フィリアは食い気味に聞き返す。どうしてもあの緋に会いたいらしい。エイドも期待したような目で聖女を見ている。
「もうこんな時間です。また、明日の朝に来てください。その時に伝えます。」
窓の外を見ると暗闇が広がっている。昼から長く話し込んでいたことに、二人は今更ながら気づく。
「フィリア、宿で……。」
「わかってる!」
フィリアは焦った顔になり、素早く話の礼をすると飛び出していく。フェイは相変わらず微笑んで眺めていた。一方、エイドはゆっくりと立ち上がり、聖女に向き直る。
「……今日はありがとうございました。ずっと、本当にずっとフィリアはアカのことを気にしていたから、話を聞けて良かったです。」
「それは何よりです。それより、追いかけなくて良いのですか? もう見えなくなりましたけど。」
「じゃあ、僕も御暇させてもらいます。また明日の朝、よろしくお願いします。」
「ええ、また明日。」
エイドも去っていった。終始、微笑みを絶やさなかった彼女は、エイドが見えなくなったところで少し疲れたような表情をする。誰にも気づかれぬように礼拝堂の方に向かう。微笑みに隠されていたのは深い後悔であった。
「貴方様が救われますように。」
今日も彼女は祈っている。遍く全てが幸せに終われることを。自らの《
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