私が、守らねばならぬのだ。

「私が、守らねばならぬのだ。」


 彼と共に戦場に出たものなら、一度は耳にしたことがあるはずだろう言葉だ。彼の口癖であり、信念。彼はいつもそれを成し遂げていた。無口だが、優しく剛健な彼はまさしく救国の英雄だったのであろう。そしてこれは、そんな彼がしまう前の物語である。

 悲鳴と喚声が響く戦場で迫りくる外敵に剣を振るう。彼は仲間たちから突出し、単身敵陣に飛び込んでいたのだ。一人、また一人と斬り伏せられ、物言わぬ死体が増えていく。迫り来る敵の兵士には、彼の燃え盛るような赤髪が目に焼き付いて離れなかっただろう。程なくして彼以外に動くものはなくなり、あたりに静寂が訪れる。しんしんと雪の降る日であったから、一層そう感じられた。いつものように大勝であった。


「おつかれさまでした。」

「……おう。」


 凱旋前に戦友から声を掛けられる。言葉少なに彼はそう返すが、相手はなにも気にした様子はない。やはりいつものことなのだろう。凱旋もいつも通り彼が無口に厳しい顔で街を周り、彼以外の兵士や騎士は笑顔で手を振ったりして、住民もそれを歓声で迎えていた。そんな凱旋の後、自宅に戻っている時のことであった。

 雪の勢いが強くなる中、ゆっくりと彼は歩いていた。帰りの途中に街の見回りを兼ねて、辺りを一周するのが彼の習慣だったのだ。


「……?」


 赤い髪や鎧を雪にまみれさせながら、何かを感じ取ったように立ち止まる。すぐさま、一つの路地に足を進める。速くはなかったが、確かな足取りであった。その路地には孤児が一人、壁にもたれかかっていたのだった。




 ――――――




 孤児を一人連れ帰った彼は、諸々の家事を済ませていた。彼は英雄であったが屋敷に住むことを好まなかった。それに様々な状況に備えられるように、国境側に居を構えていたのだ。更に一人暮らしであるため、彼は一通りの家事はできるのだ。

 まあこの状況は、もともと彼も孤児で師匠に拾われたこともあるのかも知れない。彼ももうすぐ四十代だ。この技術を誰かに継がせたかったこともあるのだろう。


 その後、長いこと彼に育てられ、一時には仲が悪くなった事もあったが、彼女は一人前に成長していった。その姿はまるで父親と娘のようでもあった。そうして彼女が十五歳のとき、丁度二年ほど前の事であった。これは彼女の物語の始まりだったのだろう。それが悲劇だとしても、彼女の英雄譚の始まりに相応しくなってしまった。《仮面Editor》が彼と彼女の前に現れてしまったのだ。


 さあ、物語は始まった。Braveは死に、Alterは目覚め、Editorと会合する。他のメンバーも集結しつつある。彼女の旅はどうなるのか。はてさて、この”物語”はどうなっていくのか。見届けるのが楽しみだ。

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