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「理詰めって言うと堅いけど、んーっと、真面目すぎるって感じ?
でもって、俺は気にしてないし、むしろ、そんな風に考えてくれただけで、逆に嬉しいってやつかな?」
その言葉を聞いた瞬間、肩の力が一気に抜けて、気づく。
俺自身、緊張していたんだと。自然と息がこぼれた。
「そっか。気にしてなくて良かったって言うのも変だけど、なんかあの後、色々考えちまって……」
「あはは。それで寝不足? てか、あゆかに色々きいてたの、それが原因だったりする?」
”どこから聞いてたんだ”と言う疑問が生まれるとともに、”聞かれていた”と言う現実に、頬に熱が集まるのを感じた。
「うっ。まぁ、そう、だけども…」
「まー? 俺は気にしないタイプだけど、気にする人は気にするから注意した方がいいかもー。それに、あゆかとかに言ったら一発でぶん殴られる案件だよー」
喉を鳴らし笑いながら、拳をつくって空気を殴る動作をする宇汐に、あゆかにないにしろ、すでに一発殴られていると言えない案件がある。
宇汐なら、薄々気づいていそうな気がしないわけでもないが。
「でもさ、宇汐も、その、辞めたいとか、目指してるエネルギーってどうなってんだ?」
聞かれているから隠す必要もない。
半分、開き直りである。
あゆかにも聞いた、ふとした疑問を宇汐にも聞いてみた。
「うーん。俺は、楽しいからかなー。勿論、大変なこともあるし、ただ単純に楽しいんだよねー。お祭りみたいでさ」
テーブルに頬杖をつくように座り直した潮は、ひとりごとのようなでも、冷たくはない。穏やかに言葉を紡いだ宇汐はなんてことのないように笑った。
意外だった、あゆかのような強い言葉や意思とかじゃなくて、ふわふわとした感情であったことに驚いた。
「イベントがお祭りみたいでワクワクする、ってことか?」
「それもあるけど、んーなんだろう……」
俺の質問に言葉を区切ると、顎に手を当て、少し考えると再び口を開いた。
「やっぱり、1つのもの、ステージで、何百人も、何万人も、楽しませるってすごいし、楽しいなって。
だから、やってみようかなーって、結構、単純な感じかも〜」
普段通りの穏やかな笑みを浮かべていた。
「そうなのか」
嘘をついているとか、冗談とかじゃない、思ったことをそのまま口にしているその様子にただ言葉を返すしかできなかった。
「そうそうー。それにイベントって
・・・血が騒ぐ。あゆかと通ずるところか見えた気がした。
そして、笑っているが底知れぬ何かを感じて、怒らせて怖いのは宇汐なのかも知れないと背筋に冷や水が流れた。
「あーと。今は”
「はぁっ!?」
たたでさえ、情報過多なのに、予想もしていなかった言葉に大きな声が出でしまった。
その様子に気づいているくせに、何事もなかったように宇汐は言葉を続けた。
「だから、多分、良が思ってるほど明確なものってないだよねー。
ただ、気になるものが、ハマってるものになって、それで、”今は”音響に夢中なんだよー」
「へ、へー?」
次々と出てくる言葉に大混乱である。
「良はさ。自分になんにもないって思ってるかもしんないけど、俺はね。良は良であって、気づいてないだけだと思うんだよねー。
それにさー。明日、今の音響を超える出会いがあって、変わっちゃうかもしれないし?」
俺の様子を横目にあゆかと話している時と同じようにニコニコと笑みを深めた。
「ってことで、とにかくも。今すぐ決めなくてもいいんじゃないかな? 焦らずに行こー」
ここまでくると、今まで
人それぞれだけど、なんだかんだと真面目に真面目に、石橋を叩きすぎるくらいに考えすぎていたのかもしれない。
そう気づいてくると、そんな自分に苦笑いをしてしまう。
「たっ、ただいま!」
片手に”いちごミルク”と書かれたピンク色の紙パックを持って帰ってきたあゆか。
「おぅ」
「おかえりー」
俺たちの様子をみて、ひとつ頷き、椅子に座る。
「?」
その行動が理解できずに首を傾げていると、宇汐がコッソリ教えてくれた。
俺の様子がおかしいから、あえて席を
なんだかあゆかの意外な面を知るばかりだし、宇汐はそのあと、あゆかに無言で肩にパンチをされていた。
それがあまりにも重い音だったので、悶える宇汐を横目に声をあげて笑ってしまった。
ーー
ケンカだったり、単純に楽しさだったり、と。
俺も俺なりの、将来の捉え方を見つけることはできるのだろうか?
いや、みつけたいと思った。
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