第36話 闇への誘い
真っ暗だ。
優子は出口を探すために歩き始めた。
しかし、何も見えない。
誰も来ない。
ちょっと歩くと、また一枚の写真を見つけた。
優子は泣きながらその震える手で写真を裏返した。その裏には、黒いインクで奇妙な言葉が書かれていた。
「視えないものほど危険なものはない。」
その言葉を見つめるたび、胸の奥に冷たい何かが突き刺さるようだった。写真に映っているのは、あの見覚えのある廊下――しかし、優子が気づくとそこには彼女自身が立っていた。
「これ……私……?」
写真の優子は怯えた表情で何かを見ている。しかし、その先に写っているものは何もなかった。ただ、奥に広がる闇だけが不気味に空間を支配している。
「一体、どういうことなの……?」
混乱する彼女の耳に、不意に何かが囁くような音が響いた。
「視えないものは常にそばにいる……」
その囁きはあまりにも近く、まるで背後から直接語りかけられているかのようだった。優子は反射的に振り向いたが、そこには誰もいなかった。ただ暗い部屋が広がっているだけだ。
「誰かいるの……?」
返事はない。だが、微かな気配だけが部屋の中を漂っている。優子は震える足取りで部屋を見回したが、見えない何かが彼女を監視しているという感覚は拭えなかった。
そのとき、写真の裏に書かれていた言葉の意味がふと頭をよぎる。
「視えないものほど危険なものはない。」
視えない――つまり、何も見えなくてもそこに“何か”があるということなのか。優子は恐怖と混乱の中で、視えない何かが自分に迫っていると感じ始めた。
「やめて……やめてよ……」
必死に心の中で叫ぶが、耳元でまたしてもあの囁き声が聞こえた。
「どうせ、また幻覚でしょ……」
そう自分に言い聞かせる。
「もっと近くに――見てごらん。」
その言葉と同時に、部屋の照明が一瞬チカチカと点滅した。そして、視界の隅に人影のようなものが揺らめくのが見えた。
「……誰……誰なの……?」
優子の声はかすれ、足元がふらつく。幻覚ではないと確信した。影はゆっくりと近づいてくるように見えたが、その正体をはっきりと捉えることはできない。ただそこに“いる”としか言いようのない存在だった。
彼女は後ずさりながらも影から目を離せず、やがて部屋の隅に追い詰められた。冷たい壁に背中を押し付け、視界が狭まっていくのを感じたその瞬間――影はスッと消えた。
しかし、優子の恐怖は消えない。むしろさらに強まっていった。
「視えないけど、いる……そこに……」
震える手でスマートフォンを掴み、再び佐藤に連絡を取ろうとした。だが、画面をタップする直前、スマートフォンが突然黒い画面に切り替わり、そこには不明な差出人から奇妙なメッセージが浮かび上がった。
「誰にも言うな。視えなくても、私たちはそばにいる。」
「……!」
恐怖で手を滑らせ、スマートフォンは床に落ちた。優子はその場に崩れ落ち、ただ震えながらそのメッセージを見つめていた。
「私たち……?」
その言葉が意味するものを考える暇もなく、再び耳元で囁く声が響いた。
「視えないものほど危険なものはない――わかるよね?」
その声はどこか佐藤に似ていたが、どこか違っていた。優しい佐藤の声ではなく、もっと冷たく、底知れぬ悪意を感じさせる声だった。
「佐藤さん……なの?」
返事はない。ただその声の残響だけが、彼女の心に不安を植え付けた。
優子は震えながらも必死に考えた。このままでは自分の心が壊れてしまう。しかし、助けを求めようにも、その“何か”に見張られている今、どう動けばいいのか全くわからなかった。
不意に視界が揺れ、部屋がまるで波打つように歪んで見えた。そして再び、視えない何かが彼女のすぐそばに立っている感覚が襲いかかってきた。
「お願い……やめて……」
優子はうずくまり、震える声でそう呟いた。しかし、その囁きは止むどころか、さらに彼女を追い詰めていく。
「視えなくても、ここにいるよ……ずっと。」
優子は目をぎゅっと閉じたまま、ただその言葉を否定するように首を振り続けた。だが、その声と気配は決して消えることはなかった。
暗闇に包まれた部屋の中、優子の恐怖は限界に達し、もはや彼女には現実と幻覚の区別さえつかなくなりつつあった――ただ、一つだけ確かなことは、視えない“何か”が確かに彼女のすぐそばにいるということだった。
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