第7話 過去からのささやき

割れたガラスの破片が床に散らばり、冷たい風が部屋を駆け抜けた。

優子は震えながら、何が起きたのかを理解しようと頭を巡らせる。


「戻ってきて……」

確かに聞こえたあの声。

それは、彼女が封じ込めたはずの記憶――小学校時代に優子をいじめた元友人、鈴木美奈の声だった。


美奈の顔が頭に浮かぶ。あの頃の冷たい目つき、クラス全体が自分を笑い者にする中で彼女が中心にいたこと。

優子はその記憶を振り払おうとしたが、心の奥底から沸き上がる嫌悪感と無力感が全身を支配していった。


ガラスの破片を片付けるべきだと分かっていても、動く気力が湧かない。

ただ座り込み、モモだけを抱きしめている自分に気づくと、ますます自分が惨めに思えた。




翌日、仕事中




パソコンに向かいながらも、優子は目の前の画面に集中できなかった。

昨夜の出来事を思い出すたびに、胸が締め付けられるような感覚が広がる。


「なんで今さら……」

美奈はもう関係のない過去の存在のはずだ。

それなのに、彼女の声が現実のように鮮明に響き、優子の心を掻き乱す。


仕事のメールを一通読むだけでも疲労感が押し寄せてきた。

頭が重く、目の前の文字がぼやける。ふと、優子は自分の手を見ると、その震えが止まらないことに気づいた。


何もしていないのに、まるで全身が拒絶しているかのような感覚。

「もうだめかもしれない……」

その言葉が心の中で囁かれるたびに、体が重く沈んでいくようだった。


夜、再び奇妙な音が訪れる

眠れない夜が続く中、優子はまた廊下の方から聞こえる足音に耳をそばだてていた。

コツ、コツ、コツ――同じ音。同じリズム。


優子は布団を強く握りしめ、耳を塞いだ。だが音はそれでも耳の奥で響き続ける。

「やめて……お願いだから……」

震える声でつぶやいたが、音は止まらなかった。


その瞬間、携帯電話が机の上で振動し始めた。

画面を見ると、差出人不明のメッセージが届いていた。


「どうしてあの時、助けてくれなかったの?」


その言葉を見た瞬間、優子は凍りついた。

それはまさに、いじめられていた当時、彼女が美奈に向けた心の叫びそのものだった。


現実がぐらつき、目の前の景色が霞む。

優子は自分がどこにいるのか、何をしているのかさえも分からなくなっていく感覚に襲われた。


「私が……悪いの……?」

無意識に口をついて出た言葉。その声は、深い底なしの闇に吸い込まれていくようだった。


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