第2話 バーカ
お昼休み。
海外の自動運転の発表をスマホで確認していた。
黒い皮ジャンを着た経営者が壇上に出て来て、この商品がどんなに素晴らしいものか説明している。これから駐車場がいらなくなる世界がやって来る、ことを英語で語っていた。
車を使わない時は、車が勝手に車道を走り、タクシーとして運用される。もちろん自動運転車が稼いだお金は持ち主の物になる。そのお金を使ってローンを支払えば、お金を使わずに自動運転車が買えて駐車場もいらない。
俺は英語が喋れないので、日本語に翻訳してくれるユーチューバのチャンネルの生配信を見ていて、科学の進化に胸をドキドキさせていた。高揚ではなく、不安からくる胸のドキドキだった。
なぜココまでAIが注目されるのか? ちなみにAIは人工知能のことで、ロボットは物理的な形を持った機械のことを示す。つまり脳みそと体の関係である。
AIが注目されるのは、AIを発展させることが、この世界の戦いになっているからだった。つまりAIの発展こそが現在の世界大戦だった。
色んな国がAIに力を入れている。それはAIを制した国が、次の支配国になれるからである。
AIで稼ぐ、そんなレベルではなく、世界を支配することができる。
最終的にはロボットに人類が乗っ取られる可能性があっても、この戦争は止めることはできない。
『日本がAIの発展をやめる、または規制したらどうなりますか?』と俺はAIチャットに尋ねてみたことがある。
AIの発展を止めたら、その時点で日本は後進国になっていく。経済競争力が低下し、国際的に地位が低下し、優秀な人材が海外に流出するらしい。そして国民の生活水準や福祉が著しく低下する。
残酷な未来が来たとしてもAIの発展は止めることはできない。
誰かが死ぬ。そして悲しむ人がいる。それでも戦争を止められない。
スマホの画面からは、自動運転車から荷物を下ろす人型ロボットの映像が映し出されている。人型ロボットも購入したら、……車から荷物を下ろすことさえ人間はしなくていい、という映像である。
人型ロボットは将来的には一人一台の普及が見込まれている。現在では色んな国で、色んな企業が人型ロボットを開発している最中だった。
俺はスマホの画面を閉じて、目を瞑った。2つ年上の兄のことを思い出す。なんでも出来る人で、俺にも優しいお兄ちゃんだった。朝、行って来ます、と言って出て行ったと思ったら、夜には死んだと報告を受けた。
未来から来た人型ロボットに殺されたのだ。
昼休みの終わりかけに、佐々木さんが登校して来た。
彼女には昨日の傷はなかった。傷を治す能力者がいるんだろう。もしくは昨日のことは夢だったんじゃないか。
もしかしたら彼女に胸を揉もうとしたことがバレていたかもしれない。だから彼女に近づくのは恥ずい。そう思ったけど、いつも彼女にノートを見せているのに今日はノートを見せないというのは、逆に胸を揉もうとしていることがバレていなかった場合に疑わしい行為に思えて、俺はいつもと同じように午前中にとったノートを机から取り出して、佐々木さんのところに持って行った。
「午前中にとったノートだよ」と俺は言って、佐々木さんの机の上に置いた。
彼女はチラッと俺を見ただけで何も言わず、ノートを写し始めた。
やっぱり佐々木さんはしずかちゃんで、何も言わない。
放課後。
上靴を履き替えて校門を出たところで、後ろから誰かに触れられて振り返った。
そこには佐々木さんが無表情に立っていた。
「佐々木さん?」
と俺は言った。
佐々木さんはそのまま歩き出す。
付いて来い、ってことなのかな? と思って俺は彼女の後ろを付いて行く。
「長谷川君って、……長谷川先輩の弟だったんだね」
と彼女が言った。
長谷川先輩?
兄を示す言葉だとわかった時に、やっぱり2人は繋がっていたんだ、と嬉しくもあったし、お兄ちゃんが先輩って呼ばれているのが、ちょっと不思議だった。
「お兄ちゃんのことを知っているんだ?」
と俺が言う。
お兄ちゃんの話がしたい、と俺は思った。
「昨日のことは忘れてほしい」
と佐々木さんは言って、歩くスピードを速めた。
「佐々木さん」と俺は彼女を呼んだ。でも彼女は振り向かない。
「昨日、佐々木さんのおっぱいを揉もうとした」
と俺は言った。
彼女が振り返り、俺を見た。
「バーカ」
と佐々木さんが言って、また足早に歩き始めた。
俺は佐々木さんが小さくなっていく姿を見守った。
こんなにも可愛い女の子が世界を守るために戦っている。胸がギシシシシと鳴る音がした。いつか彼女もお兄ちゃんみたいに死んでしまうんじゃないか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます