第13話「奴隷少女と巨大なトカゲ」
――――火山の山頂。その中心にある巨大な窪みの中。
火の河が絶え間なく流れ続け、沸々と沸き上がる。
その空間には熱の渦が轟々と音を立てる。
呼応するかのように、一つの影が唸り声を上げる。
……その姿は凶暴性を帯びて牙や爪は人肉を切り裂く程に鋭利で
力は凄まじく並大抵のものでは太刀打ち出来ないだろう。
リアナの頬には血が滴る。腕は醜く痣を露わにして足はあらぬ方向に曲がっていた。
数十分の戦いの末。リアナを連れて、ある崖沿いの小さな窪みに身を潜めていた。
事態より、数時間前に遡る――――
「ここがトカゲの住まう山「ヴォルカナ」なんですね」
山の麓を目の当たりにして、思わずそんな声が漏れる。
火山と隣接している為か、気温は高くとても長居できそうには思えない。
しかし、外気とは裏腹にリアナの体は震えていた。
気候や環境のせいではない。その震えの正体は畏怖である。
いくら知識を与えたとしても実際に目にして感じるものは大きく違うだろう。
リアナに言葉を掛けることも出来ないまま足を進めることしか出来ないでいた。
「この暑さじゃあ、野営することも不可でしょうか…」
口を開いたと思えばそんな杞憂。しかし、これ以上の辛いことがあった。
「魔物の住まう地なだけあって、ここらには
罠や、その子らが徘徊しているらしい」
常に高気温である以上、生息可能な生物は数少ない。
だからこそ、獲物を逃すまいと罠を張り巡らせる。
「あの丸みを帯びたでっかな岩。あれも罠…」
視線の先には穴にすっぽりと収まっている石が鎮座していた。
現在歩いているのは急斜面。そして足元に張られる無色の糸から考えるに魔物の取り付けた罠だろう。
しっかし困ったな。この道を歩まなければ、頂上にはたどり着けない。
道は一本道。でかでかとこの先の目的地を遮るように置かれている。
一度麓まで戻り、リアナの魔法で何とかするかと頭を悩ませていると
リアナは岩に近付き、そのでっかな岩に手を触れる。
そして、何かを思い出したかのように手を引っ込める。
あろうことか持ち上げようとし始めたのだ。
……当然持ち上がる訳もなく、体は後ろへと倒れこむ。
思わず困惑の表情を浮かべてしまうも、ひとまず手を差し伸べる姿勢を取る。
だが、この音はなんだ?。風のなびく音とは別の、重い音が耳に入る。
「ありゃりゃ。やっぱり駄目でしたか。逃げますよ」
けたたましい音が鳴り響くと同時に、我先にと走り出すリアナ。
でかでかと主張しながら転がる岩を理解するのに、一体どれだけの時間を要したのだろうか。
罠が作動したらしい。
時すでに遅し…とまではいかないものの、既に岩は目前まで迫っていた。
「どうしてだ?!普段のお前なら、もっと冷静にいられただろ!」
ぜぇぜぇと息巻くリアナに怒りをぶつけると しばらく黙り込んだ後、一言告げる。
……正確には聞き取れなかったがと言えば正しいのだろうか。
言葉の意味が分からないまま、俺は走るしか他ならなかった。
…現在、岩の落下地点から少し離れた位置で身を潜めている。
人差し指をくるくる回しながら笑顔を見せる。
「夢を見たんですよ」
「夢?」
「えぇ夢です」
短い一連のやり取りを交わした後、あっけらかんとした様子で
溝から顔を出し、辺りを見渡す。一体どんな夢を見たんだ
と呆れつつ、リアナに続いて俺も頭だけを覗かせる。
岩は過ぎ去って、砂煙が立っている。
安全と判断したのちに身を乗り出し歩みを再開させる。
いつも通り、あまり会話を交わさずにただ歩く。
リアナもすっかり慣れた様子で、時折鼻歌を歌っていたりもする。
が……どうもその仕草が嘘八百であるように感じ、思わず顔をしかめてしまう。
何か考え事でもしているのかと声をかけたくなるも
一々言葉にするのも面倒になり 一旦は黙認することに決めた。
「もしかすると、トカゲの子らが寄ってくるかもしれません」
「それはまたどうして?」
「岩の転がる、あの轟音。どうも子らが気付いていないとは
考え難いのですが…」
瞼を閉じて耳を澄ますリアナに釣られるようにじっと聞き耳を立てる。
風の音とはまた異なる、地鳴りにも似た音が確かに聞こえる。
先の重いとはベクトルが異なるような…何か、大きな生物が近付いてくる音。
「不味いぞ。幾ら子とはいえ、魔物であることには変わらない。
一度体制を立て直し、数日程経ってからでも悪くはないと思う」
「いえ、行きましょう」
「…それも夢のせいか」
問いかけに、リアナはゆっくりと首を縦に振る。
子らが罠の音を聞きつけたのか、砂煙は徐々に大きくなっていく。
視界が開け、目の前にはトカゲの魔物が三匹。
子とはいえどやはり魔物である以上、その体躯は人並みかそれ以上。
言葉を掛ける間もなく魔法を展開する。
先手必勝と言わんばかりに放つも、魔物の皮膚は厚く 傷一つすら付いていない。
一方、硬い鱗に怖気づくことも無く、再び魔法を展開して放つ。
トカゲの子らは、首筋の節から火球を発射する。
対してリアナの展開した魔法は水を用いたもの。
水の膜が形成され、火球は中で熱気を膨張させて、やがて破裂する。
水飛沫が飛び散ったと同時にトカゲの子らへと距離を詰める。
背骨から連なる穴。恐らくは心臓の役割を果たす箇所に鋭い水の槍を突き刺す。
空気が振動する。死にゆく者の叫びを代弁するかのように、その音が辺りに響く。
トカゲの子らは動くことも出来ずに絶命する。
「まだ…来ます」
地は割れ、山は崩れる。岩雪崩が起き、砂埃が舞う。
砂埃は天に向かい、生じた溶岩が山をも溶かす。
力強く、その姿こそが王たる者だと人々、鬼共は謳う。
歴史が名を刻む時、皆は口をそろえて呼ぶだろう。
「火の支配者「ラヴァスケイル」」と
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