切開枸杞《きりひらくこ》は切り開く

高井希

第1話切開さんがやって来た

「皆さんに転校生を紹介します。君、挨拶して。」

切開枸杞きりひら くこといいます。静岡県からこちらに引っ越してきました。よろしくお願いします。」


彼女は小柄で華奢な体つき、少し癖のある栗色の髪をポニーテールでまとめ、女の子らしい可愛い顔、その声も心地よく響き、クラスの生徒達は思わず見とれてしまった。


「可愛い。」

「キュート。」

「お付き合いしたい。」

「おおい、お前たち本音が駄々洩れだ。じゃあ、一番後ろの席が空いてるから、あそこに座ってもらおうかな?。」


切開はすこしモジモジしてから、上目遣いに先生に言った。

「すみません。先生。最近目が悪くなってきたのに、引っ越しで眼鏡を作る時間がなくて。黒板の文字が見えるように、出来れば、前の席にお願いしたいんですけど。」


「そうか、じゃあ、田中、空いてる後ろの席に移ってくれ、切開さんがこの席に。」

「ごめんなさい。田中さん。私のせいで。」

切開はそつなく両手を合わせて可愛く田中に謝ってみせる。

「問題ないよ。むしろラッキー。前の席はメンドイからね。」


ー成績を上位に前の席で授業を受けていた生徒は,他の席に座っていた生徒と比較して,約5-27%高い成長率を遂げたってデーターがあるのよ。教室では前の席に座らなくちゃ。それに、前の席のこの男子、チョット好みかも。スクールライフには恋愛も必須よ。ー


切開は脳を高速回転し、自分の一挙一動を計算して生きていた。

何故なら、彼女の家訓は『自分の人生は自分で切り開く。』なのだから。



昼休み、切開の周りには、クラスメートが集まってきた。


「かわい名前で、切開さんに似合ってるけど、枸杞くこって珍しい名前ね。」

「枸杞の実って、体にいい生薬で、楊貴妃も愛用してたんだって。」

「そうなんだ。」

「引っ越しはお父さんの転勤のせい?。」

「うん、そんなとこ。」


ー切開の両親が自分たちの弁護士事務所を新しくここ神奈川県で立ち上げたための引っ越しだったが、初めから両親が弁護士であることを吹聴せず、後から自然にわかってしまうという方が、反感をかいにくいという計算の上の返事だった。ー


「どこに住んでるの?。」

「駅の近くよ。まだ、住所ちゃんと覚えてなくて。」

ー個人情報は具体的に教えない。これは基礎ね。


「わあ。お弁当かわいい。まさか、自分で作ったの。」

「時間なかったから、適当だよ。」

ー本当は市販の製品に飾りつけしただけであるが、最初のイメージが大切なのである。ー

「お弁当箱のカバーも可愛い。これ手作り?。」

「こんなの簡単だよ。生地が可愛いから。」

「切開さん料理も裁縫も得意なの?。女子力高い。」

「そんな事ないよ。三浦さんのリップの色凄く可愛い。ドコのメーカー?。」

ー褒められたら、褒め返す。これが女子のマナー。ー



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