第5話
ふたりでドリームランドに行った日をきっかけに、私は土日になるとドリームヒーローズのショーを見に行き、教室でも三澤君と話すことが多くなった。見た目のせいでクラスメートから敬遠されているけれど、私は三澤君が頑張り屋さんで、心の優しい人だってことをもう知っている。
三澤君がレッドをやるのはお父さんに憧れていたのもあるけれど、お母さんと三人の弟妹の助けになりたいからだ。
ショーがない平日はドリームランド内で他のアルバイトを頑張っている。
ときどき学校に遅れたり休んだりするのは、妹さんが喘息がちで、よく体調を崩して看病しているから。
私はそんな三澤君を応援したくて、昼食がいつもパンかおにぎりだけの彼にお弁当を作ってみたり、授業で遅れたところがあると一緒に勉強したりした。
休んだ日の課題を届けにおうちに行ったときは、弟さんや妹さんとも一緒に勉強した。
ありきたりの応援だと思う。それでも三澤君は、私が応援するとぴかぴかの笑顔を見せてくれる。
「ありがとな。凄く助かる」
そう言ってくれて、いつもは
お父さんの話をする時みたいに、お母さんや弟さん達に見せるみたいに。
病気のせいで人のお世話になるばかりだった私が役に立てるのがうれしい。
だけど近頃、その笑顔がなぜか私の胸を痛くさせて、動悸を起こさせる。
応援を頑張りすぎているのかもしれない。
喜んで貰えて張り切りすぎているのかもしれない。
次に発作が起きたら大きな手術が必要になると言われている私だ。体調には充分充分気をつけておかないと……
「──大塚、調子悪い?」
弟さんたちが宿題を終えて遊びに出て、静かになったリビングの椅子で胸を押さえていると、三澤君が隣に立って背を屈めた。
顔が近づく。
途端に胸がドキ……ドキ、ドキ。
肩にそっと手が置かれる。
ドキドキドキドキ、キューッ……心臓が締めつけられる。
苦しい。こんなの……
「やだっ、近づかないで!」
あまりの胸の苦しさに、三澤君の温かい手をはじいてしまった。
「ごめんなさい! 帰る!」
呆気に取られている様子の三澤君を残し、一目散に三澤家を出る。
「大塚、待て! もう暗いから送るから!」
すぐに呼び止められるけど、今日はもう一緒にいたくない。
三澤君が近くにいると体がおかしくなる。
熱くなって、ドキドキして、切ない痛みが胸に走る。
変な顔をして、変な行動を取ってしまう。
どうしてこんなことになるんだろう。
「痛っ」
「あっ、すみません」
無我夢中で小走りになっていたせいか、出会い頭で人にぶつかった。
見上げると、柄が悪いことで有名な高校の制服を着た、金髪の大柄な男子が私を睨んでいる。
「すみませんで済むかよ。すっげえ痛いんだけど」
「ごめんなさ……きゃっ」
慌ててもう一度謝ろうとする途中で、手首を捻り上げられてしまった。
「大塚!」
その時、私に追いついた三澤君が間に入ってくれた。
だけど運悪く、その人は以前から三澤君に絡んできていた他校の生徒だったらしく、私もろとも三澤君に言いがかりをつけ始める。
「大塚、駅に入って帰れ!」
三澤君は体を張って私を逃してくれた。私は何にも考えられないまま三澤君の声のままに駅へ入った。
後で考えれば、助けを呼ぶとか警察を呼ぶとかすればよかったのに、何もできないで。
結果、三澤君は他校の生徒との喧嘩で五日間の謹慎処分になり、スマホのメッセージにも既読もつかず、連絡が途絶えた。
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